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運命の馬で“夢”を叶えた名物馬主。
キズナ産駒と武豊でダービーを。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byHideharu Suga
posted2019/08/18 08:00
「ディープインパクトそのままの走り方でした」。佐々木調教師はかつてのキズナを見て“大物の予感”がしたと振り返る。
評価の高いキズナ産駒。
そんなキズナの初年度産駒が2歳になり、まもなくデビューしようとしている。
2年前、北海道の門別に100ヘクタールのノースヒルズ清畠が開場した。当歳時に離乳してから1歳秋に馴致を始めるまで過ごす「イヤリング」の施設だ。キズナの初年度産駒の世代から使いはじめた。雪が少ないので青草も多く、海に近いためアブも少ない。馬にとって素晴らしい環境だと前田代表は言う。
「以前より1頭あたりの放牧地の面積を広くできました。やるからには、創業元年のつもりで、徹底的にやりたい。巨象と蟻の戦いですが、そうして、一強のノーザンファームに立ち向かっていきます」
トレーニングセールで史上最高額がつけられるなど、キズナ産駒の評価は高い。
「すべての競馬場で産駒をデビューさせたい。第1号がほかの馬主さんの馬だったとしても、見に行きたいですね」
佐々木厩舎にも期待のキズナ産駒がいる。
「現時点で3頭いるのですが、みな体の使い方がキズナに似ていて、軽いキャンターをします。宝塚記念の日(6月23日)にデビューさせる予定のリメンバーメモリーは、強い馬が出てくる芝1800mの新馬戦にぶつけてみたくなる馬です。キズナと同じ晋二オーナーの所有です。またダービーを勝ちたいし、フランスに行きたい。夢のつづきですから、鞍上はあの騎手です」
もちろん前田代表も大きな夢を見ている。
「今年もキズナは150頭ほどに種付けしました。私の夢は、キズナの産駒に武豊騎手を乗せてダービーと凱旋門賞を勝つことです。叶わない夢はない。諦めない限り、夢の途中だと思っています。オーナーブリーダーは日本では絶滅危惧種になっていますが、アラブの王族や、世界的ファッションブランドの経営者もやっているように、これほど面白いものはない。やめられません」
(Number978号『時代を変えた7つのダービー 7[一強時代に抗う]キズナ「絶滅危惧種の夢を継ぐ」』より)