実母が思い出す“高校時代の大谷翔平”

　投げて、打っての才能をプロから高く評価されていた大谷。高校時代は岩手から日本一になることを目指し、その後は高校から直接、メジャーを目指すことを思い描いていた。どちらも、誰もやったことのないことを求めた末に立てた目標だ。大谷の母、加代子さんのこんな言葉が思い浮かぶ。

「昔から翔平には人のできないことをやってみたいという冒険心があったと思うんです。花巻東に入るときも『（3年先輩の菊池）雄星君たちの代で全国優勝していたら違う高校に入っていた』と言っていましたし、高校から直接、メジャーに挑戦すると言ったときも『パイオニアになりたい』と言っていました」

　ところが、高校を卒業してすぐにアメリカへ渡り、パイオニアを目指そうとした大谷に、ファイターズが新たな夢を提示する。それが二刀流という前代未聞のチャレンジだった。プロを舐めるな、ケガをするぞと逆風が吹き荒れる中、二刀流に取り組んできた大谷にしてみれば、「いろいろ」あったこの7年間を、とても「あっという間」だとは思えないのだろう。大谷は言った。

「雄星さんたちが日本一になっていたらどうだったかというのは、実際に日本一になったのを見ていないので、どうしたのかはわからないんですけど、でもあの代が日本一になっていなかったことが（モチベーションになっていた）というのはあったんじゃないかなと思います。自分たちの手で（日本一をつかむ）というのはありました」

日本ハムで“二刀流”にチャンレンジすることを決意した大谷翔平（2014年撮影）　©Hideki Sugiyama

リトル時代「甲子園ではなく花巻東の練習を見に行った」

　大谷が花巻東に入学したのは2010年の春。菊池雄星が卒業した直後のことだ。水沢リトルで全国大会に出場した大谷は、その後、一関シニアでも全国の舞台に立った。大阪で行われたその全国大会の真っ最中、菊池を擁して日本一を目指す花巻東が夏の甲子園を沸かせていた。シニアの大会に敗れて時間が空いたその日、残念ながら甲子園では花巻東の試合がなかった。

　キャプテンだった大谷は、花巻東の出ない甲子園の試合を観戦するか、あるいは花巻東の練習を見学に行くか、みんなの意見をまとめておくように監督から指示された。大谷が出した結論は、甲子園ではなく、花巻東の練習……他の選手たちは甲子園に行きたがっていたのに、大谷の一存で花巻東の練習を見に行くことにしたのだという。

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