マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
ドラフトは人生が変わる場所。
王子→広島→王子、川口盛外の場合。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/07/12 18:20
プロ野球のスカウトは、人の一生を変える仕事である。広島の松本有史スカウトの周りにも、濃密な人生が渦巻いている。
2年のファーム生活の後、王子に復帰。
社会人2年目が終わった秋、川口投手はドラフト6位で広島カープに入団した。
しかし、キュッとカットボール状に動いていた「ストレート」が、プロに入ってから次第に動かなくなり、普通のストレートになってしまった。そうなると、いくら左腕でも球速帯が135キロ前後の川口投手には、プロは厳しかった。
2年間のファームでの奮投が終わったところで広島カープを退団。古巣の「王子」にカムバックしていた。
川口投手の社会人2年目にピッチングを受ける取材をさせてもらってから、彼とは顔なじみになっていた。
王子に戻ってまず投手として投げ、その後に「アマチュア資格」を取得するとコーチとしてもチームに貢献してきた。
「常識人、企業人としては文句なし」
「ご無沙汰してます。おかげさまで、今年からマネージャーで頑張っています。何かできることがありましたら、なんでもおっしゃってください」
プロ野球選手にもなった人なのに「一般人」の雰囲気が漂う腰の低い青年なのは、社会人で投げていた当時とぜんぜん変わっていない。
「そうなんですよ。ほんと、川口はいい人。なんていうか、常識人なんです。企業人としては、文句なしでしたね」
川口投手が王子で奮投していた当時の藤田貢元監督(現・副部長)が太鼓判を押してくださった。
「こういっては失礼かもしれないですけど、プロで活躍する選手って、ちょっと違いますよね。それ考えると川口はほんとに普通過ぎるぐらい普通なヤツだったんで、プロでだいじょうぶかなって心配はあったんですが……」
にもかかわらず、川口投手がプロに進んだのは、彼の強烈なプロ志向だった。