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女子レスリング史上最大の一騎打ち。
川井梨紗子を強くした伊調馨の挑戦。
posted2019/07/08 18:15
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
YUTAKA/AFLO SPORT
かつてこれほど盛り上がったプレーオフがあっただろうか。
ネットのトレンドに「女子レスリング」が当たり前のようにランクイン。
会場の座席数が少ないことから現場の混乱を避けるため、一般客は入れない“ノーオーディエンスマッチ”でやることを受け、日本テレビは急きょ伊調馨vs.川井梨紗子を生中継することを決めた。
7月6日、和光市総合体育館で行なわれた世界選手権出場者を決定するためのプレーオフ。
同選手権でメダルを獲得すれば、そのまま東京オリンピック出場権を獲得できる。5位以内であれば、今年12月の全日本選手権で優勝すれば代表の座を掴むための望みがつながる。それだけ大きな注目を集めた一戦だった。
「大したもの。すごい選手だよね」
大会当日、会場に向かうため最寄り駅からタクシーを拾うと、年配の運転手が話しかけてきた。
「お客さんもレスリングかい? 今日は朝からずっと駅と体育館の往復だよ」
タクシー運転手は旬の話題しか口にしない。見も知らぬ乗客とのコミュニケーションを計るためには、それが手っとり早いからだ。かつて格闘技ブームの頃には何度かその類の話題を振られた記憶があるが、レスリングの話題を振られたのは初めてだった。
その運転手は昨年12月以来、テレビでずっと伊調馨と川井梨紗子の試合を追いかけていることを口にした。
「伊調は30を過ぎて、しかも2年以上のブランクがあるというのに、あれだけの動きができるんだから大したもの。すごい選手だよね」
さすが生きる伝説。オリンピック女子個人競技では史上初となる4大会連続金メダリストはその続編でも市井の人々を魅了しているということか。