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天皇杯初戦はJ1王者川崎でも難しい。
明大の健闘と中村憲剛の戦線復帰。
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byGetty Images
posted2019/07/05 17:30
明治大学との天皇杯初戦で戦線復帰した中村憲剛。J1リーグ戦3連覇へ、頼もしい14番が帰ってきた。
「ここ数年でも結構な挑戦者だった」
トップ下に中村が、左サイドに登里が入り、中央とサイドから巧みにボールを動かすことで、停滞気味だった攻撃のリズムは変わった。中村はブロックの間で巧みにボールを引き出し、自分に食いつかせてはリリースし、明大の守備組織を翻弄。約30分、ゲーム全体をコントロールしながら、ボールと戯れるように時計の針を進めた。
最後まで諦めない明大も、運動量と走力を生かした試合終盤のパワープレーで王者の首筋に刃を突きつけたが、得点には至らずタイムアップ。
善戦及ばず敗戦も、試合後には明大の選手たちには温かい拍手が送られていた。
「ここ数年でも、結構な挑戦者だったと思う。あれだけ最後まで頑張ると言うのは、プロにないものというか、学生らしさだよね。厄介だった」
試合翌日、復帰戦で対峙した学生たちとの一戦を、中村憲剛はそんな風に振り返ってくれた。
「もう1回、ハングリーになれよ」
言ってしまえば、大学生相手に30分だけ出場した天皇杯である。それまで刻んできた豊潤すぎるキャリアを振り返る上で、多くの人が記憶に留めない一戦かもしれない。
しかし中村は「俺はこの試合を忘れないと思います」と言う。なぜなら、サッカーをする喜びをあらためて噛み締めることができたからである。
「ピッチに入って、みんなと試合するのが楽しかった。『ああ、サッカーいいな』って。攻めに出て行って、ワーワーやったり(笑)、それで歓声が沸いたり、そういうことに身を置くと充実するんだなって。
それが何よりも面白かったし、それをこのタイミングで感じさせてもらった。MVPも取って、リーグも2連覇したけど、『もう1回、ハングリーになれよ』って神様に言われている気がした」
そしてあらためて目の前の一戦だけを見据えた。
「怪我をしている間は、子供達もどこか寂しそうだった。でも昨日は喜んでくれたし、色々と日常が戻ってきたよね。何より自分の目線が、次に行く。怪我している間は、どこに目線を持っていけばいいかわからなかったから。これで週末の鳥栖戦に向けて準備できる」
リーグ後半戦が始まる。3連覇を狙う王者に、頼もしいバンディエラが帰還した。