マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校野球の「最高の負け方」って?
努力の全てを出した姿勢に拍手を。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/07/05 17:00
野球部生活で培った技術と力を表現しきる。高校野球では勝ち負け以上に、努力する姿勢に拍手を送りたい。
激戦に惜敗したチーム以外でもいい。
別に、壮絶な激戦の末に惜敗したチームばかりを選ばなくてもよい。
シートノック前のボール回しが見事にストライクでつながれ、それが実戦にも反映されて、スローイングミスが1つもなかった。
そんな事実に、そのチームの「努力」を見た! と判断すれば、それでも立派に「努力賞」に値するであろう。また日頃の努力が「結晶」として見えたり、強く感じられた瞬間があれば、努力賞の対象として高く評価されるものは何でもよい。
1試合、1試合を見つめる高野連の先生がたの「感性」にお任せすれば、それでよいだろう。
予選決勝戦の日、「決着」がついたあとの表彰式には、優勝チーム、準優勝チームとともに、もし予選会場が5球場なら、すでにそれぞれの球場で高校野球の「卒業式」を終えたチームの中から「努力賞」に選ばれたチームが合計5校。表彰の列に並んでいる。
授与されるものは、大優勝旗ほどは大きくはなくとも、あれだけ頑張ってきた証として渡されるものと、何より努力を評価された「事実」は、彼らの胸に同様の大きさ、重さをもって、ずっしりと一生残るものになろう。
そして、高校野球の新しいもう1つの「価値観」が、目に見える形として認識されて、球児たちのもう1つの「目標」となってくれるとしたら。
「勝ち負け」だけが価値観の物差しになってしまっては、場の雰囲気が殺伐としてしまう。世の中って、そうしたものではないだろうか。
持てる力を発揮して一歩力及ばず。
最高の「勝ち方」を称賛される者があれば、最高の「負け方」を称えられるチームがあってもよい。
ならば、「最高の負け方」とは何か?
それは、「持てる力をすべて発揮して、なお一歩力及ばず」。これこそが「最高の敗れ去り方」ではないかと考えている。
この夏の甲子園予選に参加するすべてのチームの健闘とご無事を、心よりお祈りいたします。