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〈侍ジャパンの主砲が28歳に〉吉田正尚が語っていた、豪快スイングを「絶対に“フルスイング”と表現しない」理由
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKYODO
posted2021/07/15 11:03
2016年にドラフト1位でオリックスに入団した吉田正尚。東京五輪を戦う“侍ジャパン”でも活躍が期待されている
「増井さんはまっすぐがいいピッチャーなので、バッティングカウントになったところでまっすぐ一本に合わせて、打ちにいきました。札幌ドームは広いし、フェンスも高いので、ある程度角度がつかないと入らないんですが、ちょっと高く上がり過ぎかなと思った。距離はどうかな? と見ながら走って、『あ、入ったー』という感じでした。ギリギリだったんですけど(苦笑)」
実に101打席目での本塁打。さぞ待ちわびていたのではと想像するが、マイペースな吉田らしくこう回想する。
「焦りはなかったです。でもまあ1本早く出てほしいというのはありました。なんでも1本目は早い方がいいですから。1本打てたことによって、スタートは切れるので」
その試合はシーズンの107試合目だったが、吉田はそこから残りの36試合で9本の本塁打を放ち、二桁にのせた。
「怖さは増しています。今はもう対峙したくないですね(笑)」
吉田に初本塁打を献上し、FA移籍で昨年からチームメイトとなった増井は、当時を振り返りながらこう話す。
「あの時はまだ正尚のことがよくわかっていない状態で、1年目のバッターだし、というのもあって、それほど厳しく勝負はしていませんでした。だから、ちょっとなめ過ぎちゃったかなという感じで、正直、それほどすごいという印象はなかったですね。でもそのあとポコポコホームランを打ったので、あ、すごいバッターだったんだなと。今はスイングもさらにパワーアップして、打席での存在感や迫力は当時とは比べものにならない。逆方向にも本塁打が出るので、怖さは増しています。今はもう対峙したくないですね(笑)」
吉田が「フルスイング」と表現しないのはなぜか
当時から、吉田のスイングは胸のすくような豪快さだったが、3年経った今のスイングは、豪快さの中にも緻密な技術と計算が詰まっている。
吉田はチームのデータアナリストと膝を突き合わせ、「この球に対してはバットをどの角度でどう入れたらどう飛んでいくのか」ということを研究し、そのイメージ通りにスイングすることを追求している。
身長173cmと決して大柄ではない体をめいっぱい使って振る姿は、「フルスイング」と表現したくなるのだが、吉田自身がその言葉を使うことはない。必ず「自分のスイング」と言う。「フルスイング」と「自分のスイング」はどう違うのか、聞いた。