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CL決勝、マンU奇跡の逆転から20年。
凝縮されていたサッカーの教訓。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2019/05/27 10:30
シュマイケルが、ファーガソン監督が喜びをあらわにする。サッカー史に残る劇的な展開で赤い悪魔がビッグイヤーを戴冠したのだ。
円熟のバイエルンvs.若きマンU。
しかし、それからおよそ1時間と45分後、僕の脳みそはあっけなく思考停止状態に陥ってしまう。アディショナルタイムのたった3分間で、立て続けに生まれた衝撃的な2つのゴールに、ペンを持つ手がピタリと止まった──。
キックオフ直後からペースを握ったのは、ガーナ代表のサミュエル・クフォー以外はすべてドイツ人で先発を固めたバイエルンだった。オリバー・カーン、ローター・マテウス、シュテファン・エッフェンベルクといったベテランを中心としたチームは、なによりこの大一番に臨むメンタルコンディションで相手を上回っているように感じられた。
対するユナイテッドは、ライアン・ギグス、デイビッド・ベッカム、ニッキー・バット、ガリー・ネビルら、アカデミー育ちの伸び盛りのタレントが主力を務める好チームではあったものの、彼らもまだ20代半ばに差し掛かったばかり。
プレミアリーグに続き、この試合の4日前にはFAカップも制し、国内2冠の偉業を達成してから間もないこともあったのだろう。若き“赤い悪魔”は気持ちを上手く切り替えられず、どこかフワッとしたまま試合に入ってしまったのかもしれない。
6分でバイエルンがあっさり先制。
開始6分、いきなり試合は動く。ペナルティーエリアの手前で、巨漢のカルステン・ヤンカーが倒されて得たバイエルンの直接FK。警戒に警戒を重ねるべきこの場面で、ピエルルイジ・コッリーナ主審に壁の位置を修正されたユナイテッドの面々は、一度抗議しただけですごすごと引き下がり、あっさりと壁の左端にマルクス・バッベルを入れてしまう。
名手マリオ・バスラーがそのバッベルを狙うようにして蹴ったボールは、守護神ピーター・シュマイケルの逆を突いてネットに吸い込まれた。
ユナイテッドを率いるアレックス・ファーガソン監督にしてみれば、攻守の要であるロイ・キーン、さらにはベッカムらとともに“ファーギー・ベイブス”のひとりに数えられたポール・スコールズをいずれも出場停止で欠き、中盤の編成をいじらざるを得なかったのは誤算だったに違いない。