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CL決勝、マンU奇跡の逆転から20年。
凝縮されていたサッカーの教訓。 

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吉田治良

吉田治良Jiro Yoshida

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photograph byGetty Images

posted2019/05/27 10:30

CL決勝、マンU奇跡の逆転から20年。凝縮されていたサッカーの教訓。<Number Web> photograph by Getty Images

シュマイケルが、ファーガソン監督が喜びをあらわにする。サッカー史に残る劇的な展開で赤い悪魔がビッグイヤーを戴冠したのだ。

38歳マテウスが抜群の出来だった。

 本来は左サイドのギグスを右、同じく右サイドのベッカムをセンターに配した布陣は、左サイドに抜擢したイェスパー・ブロムクビストの低調もあって、バランスの悪さが否めない。

 レフティーのギグスは自然とベクトルが内に向くため、縦への推進力が生まれず、正確なロングキックで攻撃を組み立てていたベッカムにしても、ピッチを斜めに切り裂くような十八番のアーリークロスを封印せざるを得ず、敵に与える脅威は半減した。ドワイト・ヨークとアンディ・コールの強力2トップに、なかなかいいボールが入らない。

 1点あれば十分──。

 バイエルン・サイドに立ってそう思えたのは、38歳の闘将マテウスのキャリア最高とも言えるパフォーマンスが根拠にあったからだ。リベロの位置から最終ラインを統率するだけでなく、隙を見ては果敢に単騎のドリブルで敵陣深くまで持ち上がる。彼の闘う姿勢が、ともすれば守りに入ろうとするチームメイトに活を入れ、反撃に向かうユナイテッドの出足を鈍らせた。

 そして、そんなマテウスに自由を与えていたのが、“猟犬”イェンス・イェレミースの驚嘆すべき肺活量である。とりわけ41分、相手CBのヤープ・スタムをユナイテッド・ゴール前まで追い詰めたプレッシングには、観客席からどよめきが漏れたほどだった。

シュマイケルのセーブがなければ。

 後半に入ってもバイエルン・ペースは変わらない。67分、ファーガソン監督はブロムクビストに代えてテディ・シェリンガムを投入し、ギグスを本来の左に移して攻撃のバランス改善を図るが、これを見透かしたかのように71分、敵将オットマール・ヒッツフェルトはテクニシャンのメーメット・ショルをピッチに送り込む。アクセントをもたらしたのは、ショルのほうだった。

 74分、カウンターからショルが前線に蹴り込んだボールをヤンカーがはたき、エッフェンベルクがダイレクトで左足を振り抜く。

 78分、自陣からドリブルで攻め上がったバスラーとスイッチするようにしてパスを受けたショルがループシュートを放つ。82分、前がかったユナイテッドのスペースを突いてショルがドリブルシュートを打ち込む。84分、ショルの仕掛けで得たCKのこぼれ球をヤンカーがダイナミックなオーバーヘッドで狙う。

 しかし、この10分間で生まれた4度の決定機を、シュマイケルの2本のビッグセーブと左のポスト、さらにはクロスバーに阻まれたことで、結果的にバイエルンはユナイテッドの息の根を止められず、彼らに蘇生のチャンスを与えてしまうのだ。

【次ページ】 1-0のままだろう、という雰囲気。

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