球体とリズムBACK NUMBER
トリニータの快進撃が止まらない。
JFL上がりのエースと謙虚な監督。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/05/18 08:00
好調のチームを象徴するFW藤本憲明。湘南戦でも冷静にゴールを決めた。
青森山田育ちの“日本版バーディー”。
「いつもですけど、ワンチャンス(を狙っている)」と29歳の点取り屋は話した。今季7点目を決めて得点ランキング首位タイに立つ背番号10は、JFLからひとつずつカテゴリーを上げて来た叩き上げで、J1は今季が初。今季を含め、3年連続でJ3、J2、J1の開幕戦で得点している。JFLでも開幕戦で決めた経験を持つ、極めて珍しい記録の保持者はこう続けた。
「後ろも我慢強くやっていたし、走り負けていなかった。プレスは湘南のスタイルで、そこは想定内。前半ゼロで抑えたのは大きかった。90分間ずっとプレスをかけ続けるのは難しいので、いつか落ちてくるというか、隙はできるだろうな、と思っていました」
得点シーンで見せた体の強さは「青森山田の雪中サッカー(のおかげ)。めちゃめちゃきついから」と笑い、後半に俄然動きが良くなったように見えたのは「ハーフタイムに共通理解を深めて、みんなが自分の動き出しをもっと見てくれるようになった」と説明。
深い下部リーグからの苦労人ながら、甘いルックスと陽気な性格は下積みさえも楽しんできたのだろうと想像させる。レスターのジェイミー・バーディーのように、セミプロから代表まで上り詰める可能性もある。実際、この試合には日本代表の森保一監督も視察に訪れていた。
「試合前に周りから聞きましたけど、経験がないので、あまり意識せずにプレーできました」と本人は快活に回答している。
藤本の運動量が少ない?
片野坂監督が「非常に心強い」と語るエースはこの試合にフル出場したフィールドプレーヤーのなかで、運動量がもっとも少なかった。ひとりだけ8キロ台だ。
ただしこれはネガティブな数字ではなく、ストライカーの仕事に徹していることの証明と言えまいか。動きすぎることなく、相手と駆け引きしながら、集中力を研ぎ澄ませる。これまでのゴールは、冷静に点で合わせて仕留めたものが多かった。