球体とリズムBACK NUMBER
トリニータの快進撃が止まらない。
JFL上がりのエースと謙虚な監督。
posted2019/05/18 08:00
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
J.LEAGUE
「自分たちの戦いをまた見つめ直しながら、J1で戦えるチームを作ってチャレンジしていきたいです」
ここだけを切り取れば、まるで敗軍の将が発した言葉のようだ。J1第11節、敵地で湘南ベルマーレを1-0で下した大分トリニータの片野坂知宏監督は、試合後の会見で終始、謙虚に語り続けた。
「湘南のスタイルはハードワーク。守備は激しく、攻撃では嵩にかかってきます。走行距離やスプリント回数も非常に多い。そんな相手にアウェーで上回れるか。厳しい戦いになると覚悟して臨みました。選手たちにはきっといいゲームになると言い聞かせて、トライしてもらいました。
彼らは90分間、集中を切らさずに戦ってくれた。我々らしさは少し物足りなかったかもしれませんが、割り切った戦いや、対戦相手によった戦い方も必要。そういうチャレンジだったと思います」
アジア王者を開幕戦で撃破。
今季J1の台風の目――。昇格してきたばかりの大分のここまでの戦いぶりと結果をみれば、そう評していいはずだ。6年ぶりにJ1に復帰すると、開幕戦でアジア王者の鹿島アントラーズを倒し、その後も白星を重ね、上位戦線をかき回している。
しかもその手法は、昇格組に似つかわしくないポゼッション・スタイルだ。一般的な弱者の戦法ではない。
この日を迎えた時点で3位。11人の並びは同じでもおもむきの異なるリーグカップ覇者との対戦を、「フォーメーションの噛み合わせや、両者のスタイルを考えれば、サッカー好きにとって今節一番の好カード」と、ある同業者は言った。同意しないわけにはいかなかった。