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北朝鮮・平壌マラソン参戦記、前編。
参加費は「米ドル現金払い」の闇。
text by
サハラタカシTakashi Sahara
photograph byTakashi Sahara
posted2019/05/13 08:00
平壌マラソンでサブスリーに挑戦したサハラタカシ氏。平壌での日々は刺激的だった模様だ。
外観だけ完成の105階建てホテル。
ホテルへはバスで移動した。車は謎のメーカーが多いが、日系の車もちらほら散見される。思いのほか高層ビルも多く、ピラミッドのような形をした105階建てのホテルもあった。外観は完成しているが、内装がまだという説明を聞き、北朝鮮らしさを感じる。
我々の宿泊ホテルは「ソサンホテル」。30階建てで外観も悪くなく、内装もちょっとキレイなビジネスホテルのような感じだが、どこか薄気味悪い。外国人向けのホテルのようで、ジムからバー、カラオケルームまで様々な施設を擁しているが、人のいないところは完全に電気が消えていたり、4基しかないエレベーターのメーカーが全部違ったりする。
ちなみにこのエレベーター、30階まで上がるのに3、4分かかったり、閉めるボタンが2個ある一方で、開けるボタンがなかったりと、色々突っ込みどころが多かった。
ネットが繋がらないので詳しいロケーションが分からなかったが、窓の景色を見る限り、周囲にはスポーツ施設と謎の「巨大な穴」以外何もない。外出も自由と聞いていたが、もちろんタクシーはないので隔絶されたも同然の環境である。何となく、キューブリック映画『シャイニング』のホテルを思い出してしまった。
夜、少し外出してみようとしたが、周りが暗すぎて何も見えない。さらにホテルから出た瞬間、ドアマンがトランシーバーで何かを報告していたので、怖くなり、おとなしく部屋で就寝する。
歴史認識とは若干異なる展示資料。
<ツアー2日目(4/6土曜日)>
この日は午前中から「祖国解放戦争勝利記念館」と、金日成と金正日の巨大な銅像並びに抗日革命闘争と社会主義建設の歴史を表現した大記念塔からなる「万寿台大記念碑」に向かう。
特に万寿台大記念碑は北朝鮮の人々にとって特別な場所らしい。平壌市内で結婚した男女は結婚式後に車で万寿台に乗り付け、家族よりも先に金日成像に結婚の報告とお礼の花を添える習慣があるらしく、実際、何組かのカップルを見かけた。
この日の午前中だけは我々も正装を求められた。戦争記念館は興味深いところで、国連軍が遺棄した武器や戦闘機・戦車などが展示されている。なお北朝鮮史観では「鹵獲(ろかく)」という説明だった。施設最上階にある朝鮮戦争の再現ジオラマは一見の価値はあるだろう。
ただ随所で受ける説明や、展示資料に書かれてある内容は、筆者の歴史認識とは若干異なる部分がある。唯一、韓国から参加した女性によると、韓国の教科書にも載るような有名な写真について、彼女が知っている史実と正反対のキャプションが書かれていたらしい。そこに「北朝鮮」という国を垣間見た気がした。
続いて万寿台大記念碑で厳しい監視下のもとで集合写真を撮り、マラソン本番のスタジアム見学に向かう。
スタジアムは北朝鮮内でも2番目に大きく、10万人が収容可能。スタジアムの前には「世界一」の凱旋門が建てられており、ここを横切って本番のコースをバスで試走することに。コースは平壌の市街地を川に沿って走る20kmの折り返しコースとなっており、フラットで、高速レースの予感がした。