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北朝鮮・平壌マラソン参戦記、前編。
参加費は「米ドル現金払い」の闇。
posted2019/05/13 08:00
text by
サハラタカシTakashi Sahara
photograph by
Takashi Sahara
挑戦中毒、サハラタカシ。
Number Do誌上でありとあらゆることに挑んでいく連載を持ち、そんな風に呼ばれたのも今は昔。社会人生活も早7年が過ぎたが、世の中の流れに何とか抗い、「平穏、安定、クソ喰らえ」の精神で、公私問わずギリギリのチャレンジを実行中だ。
レオナルド・ディカプリオが主演する映画『ブラッド・ダイヤモンド』にこんなシーンがある。才色兼備、さらに冒険心に富んだヒロインに、ディカプリオが「何で君はそんな危険な場所ばかりに行くんだ?」と問うと、こんなような会話が続く。
「優雅にお茶飲んで、株やってもつまらないわよ」
「刺激中毒ってやつか」
「元彼の5人に3人はこう言うわね。“君は危険を好む”」
分かるでしょうか、このヒロインの気持ちが。ぼくには痛いほどわかります。ちなみに自分は「普通じゃないところが好き」と言われて女性と付き合いはじめ、「普通の人がいい」と言われて大体フラれます。
世界は広く、まだ見ぬ未知の体験、イベント、チャレンジはたくさんある。常にそういったレースにアンテナを張っていたところ、昨年4月にたまたま見ていたテレビで、こんなニュースが流れてきた。
「平壌マラソン今年も開催。外国人参加者は激減。日本からは6名が参加」
灯台もと暗しとはこういうことか。南米やアフリカには登山などで何度も行っていたが、「北朝鮮」は盲点だった。
けれどもこれまでのレースと違い、体力的なリスクではなく、政治的なリスクを取らないといけない。なかなかにチャレンジングな大会だ。アメリカ政府は自国民に対し、北朝鮮への渡航を禁止しており、日本政府も渡航自粛を要請しているのだから。
写真を撮ると帰れないとの噂。
しかし、平壌マラソンはAIMS(国際マラソン・ディスタンスレース協会)にも公認されている大会で、今年が30回目と歴史もあるレースのようだ。2014年からは外国人の参加も認められたようで、スポーツは国境を越えるということを体現しているレースだろう。
ただ制限時間は4時間半。割とタイトである。ネット上の評判を探すと、このタイムを切れないと帰れない、道を間違っても帰れない、写真を撮ると帰れないなど“盛った”と思われる噂しか出てこない。
だが、これらはあくまで二次情報だ。誰もが行かない状況下で行くことに価値があるだろうと考え、昨秋から一緒に行ける友人探しをスタートした。すると思いのほか反響があり、企画段階では7名の友人が「興味がある」と手をあげてくれた。
しかし、いざエントリーとなると、家族からの泣訴、妻の怒り、会社からのNGなどでキャンセルが続き、最終的には学生時代に暮らしていた寮仲間、“ニワトリ”と呼ばれているアダ名の後輩との2名での参加となってしまった。