フランス・フットボール通信BACK NUMBER
結局は、持ってるか持ってないかだ!
ペレと会ったムバッペの強烈な印象。
text by
パスカル・フェレPascal Ferre
photograph byHublot
posted2019/05/10 07:00
17歳でW杯を制したペレと、19歳で制したムバッペ。歴代の“第二のペレ”達の中でもムバッペは特にお気に入りだ。
「『私の若いころを見ているようだ』と言われた」
ふたりきりで話しているとき、自分の若いころを彷彿させると彼に何度も言われた。身体つきもそうだけど動きが似ていると。僕をじっと見て、自分のかつての姿を思い出していたのだろうと思う。ちょっと息が詰まったよ。身の置き所がなかったからね。
「私の若いころを見ているようだ」と言われて、僕は「それはいいことなんでしょうね」と答えた。
祖父が孫を見ているような穏やかな視線だった。
幾度となく僕の身体に触れて抱きしめながら、「ムバッペと一緒にいるんだ」と繰り返すから、どうしていいかわからなかった。僕がペレと一緒にいるのであって、その逆ではないからね。
彼の後継ということに関してはちょっと注意する必要がある。まるで僕が彼と同等の能力を持っていて、後継者であるかのようにも言われているけど、全然次元が違う話だ。
王位を継承できるのは、王自らが自分と同等の力を認めて王冠を冠した後継者だけだ。それ以外に継承はあり得ないし、引き継ぐものが重すぎる。
次のワールドカップはブラジルに優勝させてくれと懇願されたよ(笑)。でも「僕も少しでもあなたに近づきたいからそれは不可能です」と答えた。
身体を十分ケアするようにと彼はアドバイスしてくれた。今のサッカーは日程が過密だから、彼の時代と比べてずっとフィジカルに負担がかかる。
それから技術と戦術をもっと考えるようにとも言われた。
シーズンの60試合をリスクを負うことなく安定したパフォーマンスを発揮できるように、十分な休養をとって身体を休めることがいかに重要かを繰り返し語ってくれた。
「この日のことは一生忘れない」
彼と過ごしたのは、すべてから切り離された魔法のような時間だった。同じ世界にいることを感じながら、これほど濃密な時間を過ごしたのは初めての経験だった。
まるで時間が止まってしまったかのようで、世界に彼と僕だけが存在しているような感じだった。
僕と会った直後に健康を害したのは残念だったけど(対談の数時間後に甲状腺の異常からくる発熱などで入院したが、数日後無事に退院した)、その後回復したと聞いてほっとしている。彼とまる1日同じ時間を過ごせたのは本当に夢のようだった。
この日のことは一生忘れない。