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「シュートはゴールへのパス」なのか?
大木武と大黒将志の理論から考える。 

text by

渡辺功

渡辺功Isao Watanabe

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photograph byJ.LEAGUE

posted2019/05/10 08:00

「シュートはゴールへのパス」なのか?大木武と大黒将志の理論から考える。<Number Web> photograph by J.LEAGUE

岐阜戦に続き、J2第12節徳島戦でもゴールを決めた大黒将志。39歳となった今もその得点力は錆びない。

ハッとしたある選手の言葉。

 この日の岐阜の選手たちには、立ち上がりから積極的にシュートを撃ちにいく姿があった。

 岐阜といえば、これでもかとボールを動かし、何度も攻撃をつくり直して相手を崩しにいくイメージが強い。だが、それでゴールが決まらないとなると、焦れったさや歯痒さのほうが募り、「パスをつなぐことが(ゴールを奪うための手段ではなく)目的になっている」と、批判されることが多くなる。

 もちろん、そのあたりの手立ては講じており、3年前に岐阜の監督に就任した初日の練習から、大木武監督はシュートのトレーニングに時間を割いていた。今年1月の静岡キャンプでも早い段階から、裏のスペースを狙うことを主眼に置いたメニューに取り組むなど、働き掛けは常に行ってきていた。

 ただ、そんなあるとき、選手がふと漏らした一言によって、大木監督は気づかされたことがあったのだという。

「ある選手が『シュートを撃つ』のではなく『シュートを撃てるところを探している』、『簡単に撃てる場所を探している』と言ったことがあったんです。ちょっと、ハッとさせられまして。たしかに、そうだなと。たしかに私の場合、誰が撃っても入るようなところからシュートを撃つような練習が多いんですよね。

 シュートの本数が(ほかのチームと較べて)極端に少ないかと言ったら、そんなこともないんですが、やっぱり撃たなきゃ決まらないというところもありますしね。そういう部分では、撃てるところで撃ちにいく。ちょっとシンドくても撃ちにいく。そういう話は選手にしていますし、そういった練習も増やしています」

大木監督が気づいた選手心理のブレ。

 以前、岡田武史元日本代表監督が、エメルソン、ウィルといった、コンサドーレ札幌の監督時代に指揮したブラジル人ストライカーの卓越した決定力について「止めて、蹴るの基本技術が日本人選手より圧倒的に巧い」と話していたことがあった。

 大木監督が究極の理想のゴールとして、相手GKとの2対1をつくる形だと言うことがあるが、この発想のそもそもの出発点は、外国籍ストライカーに匹敵する技術を持ち合わせず、1対1のシュートシーンでも決め損ねることのある日本人選手で、どうやってゴールの確率を高めるのか。その方法を突き詰めた上でのこと。

 闇雲に無理なシュートを撃った挙句、ブロックされたボールが弾んで相手に渡り、一転カウンターから大ピンチを招くことだってある。

 だが、そうやって「誰が撃っても入る」ような状況をつくろうとすることで、「撃てるところで撃ちにいく」より「簡単にシュートを撃てるところを探す」側へ、必要以上に選手の心理の針が振れてしまう。このあたりの微妙で繊細なバランスが、人間がやるスポーツの難しさなのだろう。

【次ページ】 「パスとシュートは根本的に違う」

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