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湘南の会長が語る「Jリーグと平成」。
理想は、地域の公共財になること。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byGetty Images
posted2019/04/30 11:00
湘南ベルマーレは、Jリーグの酸いも甘いも味わったクラブである。そんな彼らだからこそ語れることがあるのだ。
Jリーグの目標は、国の未来と重なっている。
──翌2002年にはトライアスロンチームも立ち上げます。
「Jリーグが目ざしていることは、この国が目ざすことと重なっている。我々がJリーグ最初の総合型クラブとしてまっしぐらに、それもJリーグの理念に沿って進んでいけば、もしまた経営が大変になっても手を差し伸べてくれる人がいるかもしれない、と考えたところはありました。
ビーチバレーとトライアスロンは2002年に設立したNPO法人『湘南ベルマーレスポーツクラブ』のなかにあり、サッカーチームのU-15以下の育成組織もNPO法人へ委託する形をとりました。こちらはアカデミーと呼ばれる育成組織を安定的に運営するためで、トップチームも含めてグラウンドは行政のものを使わせてもらうようにした。
親会社の持ち物を使うほうが融通は利くかもしれないけれど、業績次第で難しい局面が出てくるかもしれない。やがては我々のようなやり方のクラブが増えていくのでは、という見通しもありました」
──総合型クラブとして歩み出してから、眞壁会長は「ベルマーレは地域の公共財になる」と話してきました。
「公共財は公共事業によって造られるもので、財源は税金です。少子高齢化で新しいハードを造る必然性は見つけにくくなり、これからは健康増進のようなソフトに国の予算が使われてもいいのでは、と以前から考えていました。
実際はそうもいかないと分かっていますが、公共財の意味を『そこになくてはならないもの』ととらえて、あえてそういう発言をしてきました。ベルマーレは民間企業で公共事業はやっていないだろうと思われるかもしれないですが、ドイツのサッカークラブは地域になくてはならないものになっている。社会に必要なものが公共財で、私たちが目ざしてきたのもまさに同じです」
──地域に必要な公共財として、Jリーグが行われていない日に巡回授業や巡回指導、健康増進のクリニックなどが開催されています。ホームタウンのどこかで、いつもベルマーレが活動しているという状況を作り出していきました。
「プロサッカーチームとしてのベルマーレは、試合に勝つことで観衆に夢と感動を与えることを当然の義務としています。しかし残念ながら、試合に勝てるのは1試合に1チームだけで、運にも左右される。試合にはもちろん勝ったほうがいいけれど、試合のない日に何をするのかを大切にしなければ、親会社を持たない我々のようなクラブはやっていけない。
そのための総合型クラブで、今はサッカー関連以外で年間およそ1000回以上の活動があります。同じ人が複数の活動に参加していても、延べ人数では相当な数になるはずです」
──「地域の子どもたちを育てることはベルマーレの公約」とも話してきました。
「それも公共財としての役割です。教育現場が難しい時代になっていることを考えても、昭和の時代に学校で教えていたことをスポーツクラブで教えるようにならざるを得ないし、実際になってきている。それが良いか悪いかは別にして、ですが。我々の育成は『そこに落ちているゴミを拾えること』と『きちんとした挨拶ができること』を大切にしています。
アカデミーから2000人の子どもがプロサッカー選手を目ざしても、実際になれるのはほんの一握りです。だとしたら、月謝をもらって子どもたちを預かっている我々の仕事は、サッカーを教えながら社会で通用する常識を身につけてもらうことでしょう。その基本的な部分が、きちんとした挨拶であり、ゴミを拾うことなんです」
──なるほど。
「そういう子どもたちが増えたら、我々のエリアはゴミが少なくなる。気軽に挨拶をしてくれるので、何だか気持ちがいい。そういう街なら住みたくないですか? 少子高齢化になっても、人口減にはならないでしょう」