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リンクから離れて気づいたこと。
高橋大輔「ピークはまだ先にある」
posted2019/05/01 10:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
しかしその顔には、確かな笑みが浮かんでいた。
昨年7月の現役復帰表明からおよそ半年。
目標と定めた全日本選手権に、元王者は帰ってきた。
大会後、世界選手権代表の辞退とともに告げた
「引退はまだしない」という言葉。その裏側にあった、
スケートへの想いの変化を本人が語る――。
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年が明け、姿を見せた高橋大輔はさっぱりと一新したヘアスタイルで笑顔を見せた。
「全日本のあとは10日ほど休んで、その間は暴飲暴食の毎日でしたけれど、最近リンクに行くようになりました。練習はもう始めています」
昨年7月に現役復帰を表明。引退から4年を経た32歳での異例の挑戦に注目が集まる中、地方大会から階段を一つずつ上がり、昨年12月、5年ぶりに全日本選手権に出場。復帰時に目標とした「全日本選手権の最終グループで滑ること」を現実のものとし、さらに総合2位という結果を残した。
大会後には世界選手権代表選出の打診を受け辞退したことを明かすとともに、「まだ引退しない」とも語っていた。
「すべてが無駄ではなかった」
それからおよそ半月。その表情は復帰後、一貫していたように、楽しそうでもあり、充実を漂わせていた。それはシーズンそのものを象徴しているようでもあった。
「すべてが無駄ではなかった、つながっていると今、思います」
と振り返る高橋は、まず、世界選手権代表の辞退について触れる。
「ミニマムポイントをとりにいけば、世界選手権には選びますと言っていただいたときに、それは違うなと思いました。世界選手権というのは日本を代表して行くところで、それだけの責任感をもって出ないといけないのに時間もない。世界選手権に行くために、世界で戦うために復帰したわけではなく、自分のスケートを取り戻したいというところでやっていたので、気持ちと一致しない、覚悟というか、違うんじゃないかな、と。もし来年だったら、来年というか2年くらいやって世界が見えてきている状況なら、(他の選手が)僕を越せなかっただけでしょ、といえるかもしれないですが。
それに日本での世界選手権なんて、なかなか経験できることじゃない。その経験は大きい。だから若手に、と思いました。(田中)刑事はぜんぜん若くないけれど、僕にとっては若手なので(笑)」
2位になったものの、フリーはジャンプのミスが相次ぎ、高橋本人も「不甲斐ない」という出来だった。もし心から納得の行く演技ができていたら、世界選手権を辞退しない可能性はあったのか。