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リンクから離れて気づいたこと。
高橋大輔「ピークはまだ先にある」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2019/05/01 10:00
昨年、現役復帰を表明し、リンクに戻ってきた高橋大輔。さらなる進化を遂げるべくスケートを楽しむ。
若手やスケート界発展への思い。
高橋は即答する。
「ないですね。それはまぐれだと思うから。じゃあ、世界選手権でもできますかと言われたら、自信が持てないと思う。だからやっぱり、出ない選択をしたと思います」
2019年の世界選手権はさいたまスーパーアリーナで開催される。'14年と同じ会場であり、高橋が辞退した大会だ。
あのとき出られなかった思いを晴らしたいという気持ちに駆られなかっただろうか。
「それは思いましたよ。でもそれはエゴかな、と」
復帰会見から全日本選手権まで一貫して、高橋は若い世代やスケート界の発展に多く言及してきていた。それは時に「自分が」という気持ち以上に際立つ場面も多かった。アスリートは、自分が、という気持ちを強く持つものであり、それが許されもする。
高橋自身は、負けず嫌いな面を見せつつ、もともと周囲への気遣いを見せる選手だったが、その性格を考慮しても、それらの言動は強い印象を残した。
「ずっと現役を続けていたらそうだったかもしれないです。ただ僕は一回離れた。イチローさんもカズ(三浦知良)さんもずっと続けているじゃないですか。(スキージャンプの)船木(和喜)さんもそうですよね。続けるのって相当難しいことだと思うんです。そういう人は、自分が、でいいと思う。でも僕は逃げたというか自信をなくして離れて、戻ってきた。その間には、応援する立ち位置にもいましたから。うまく説明できないけれど」
「逃げたという気持ちが大きかった」
かつての引退を、「逃げた」と表した。
「目標を達成できていない、(ソチ)オリンピックではメダルを獲れていない、世界選手権も選ばれていたのに、そこまで頑張れない、作り直せない、というところで逃げた部分もある。足のこともあったし。でも無理して出ようとすれば出られたところではあるんです。だから逃げたという気持ちが大きかったですね」
当時の世界選手権は、長光歌子コーチからも辞退することを勧められていた。
「安心しましたね。気が楽になった。(先生は)普通だったら出た方がいいんじゃない、何が起きるか分からないよというタイプなのに、『いいんじゃない』と。ずっと流れを見ていましたからね。ソチまでの2年間、いろいろうまくいかなかったですね。やることすべて裏目に出るというか」
それでも日本代表として結果を出すことを求められる。期待される。責任感とともに当時背負っていたものの重さも思わせた。