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リンクから離れて気づいたこと。
高橋大輔「ピークはまだ先にある」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2019/05/01 10:00
昨年、現役復帰を表明し、リンクに戻ってきた高橋大輔。さらなる進化を遂げるべくスケートを楽しむ。
純粋にスケートを楽しめている。
直接のきっかけは全日本選手権だったかもしれない。でも、一度は嫌になった競技の場への思いを取り戻させたのは、4年間のさまざまな経験にほかならなかった。
復帰を決断し、競技者としてリンクに戻った高橋が得たのは、純粋な「楽しい」という思いだった。
「復帰までの4年間、スケートをないがしろにしていてできないことばかりになっていたのに、集中して練習したら、『あれもできる、これもできる』と、初心じゃないですけど、そういう気持ちを味わっていました。以前とは違う意味でプレッシャーはありました。全然駄目なら、『なんだ、高橋大輔ってこんなものなの』と言われる可能性もあるわけじゃないですか。でもそれ以上に、一つ一つできることが増えて、32歳でもぜんぜん行けるんじゃないか、という楽しさを感じる気持ちのほうが強かったですね」
やがて、ただリンクに「戻った」というのとは異なる感覚を抱くに至った。
「スケートが嫌になって離れていましたが、やっぱりスケートがいちばん自分にとって自信を感じられる。スケートというものをほんとうの意味でやっていきたい、パフォーマンスしたいという気持ちで、今はちゃんとスケートと向き合っている。いずれ競技生活が終わっても、パフォーマンスができるうちは一生現役くらいの気持ちで、覚悟をもってやっていきたいと思えたので、『新たなスタート』だと感じました」
「自分はスケートが好きなんだ」
そればかりではなかった。
「自分はスケートが好きなんだ、と言えるようになりました」
記憶にある限り、'14年の引退前、「スケートが好き」と言ったことはなかった。高橋もうなずく。
「ないですね。言わなかったと思います。実際、好きか嫌いか分かっていない、やらなければいけないというのが大きかった。もともとはすごい好きだったんだろうけれど、いつしか分からなくなっていたというか。引退していろいろなことをさせてもらったからこそ、あ、自分ってスケートが好きなんだなって思えたし、言えるようになりました。それも発見ですね」
そして笑顔を見せた。
「写真とか撮ってもらう機会は復帰前もありましたが、やっぱりスケートをやりだしてからの写真がきれいというか、いい顔をしてるなと自分でも思う。そこでも、スケートが好きなんだなって思ったし、復帰してから、逆にスケートが好きだという気持ちが芽生えたのかもしれないですね」