「疲れたら休むし、キツくなると逃げる」

　翌'16シーズン、監督からGMに転じた滝の的確な補強、新たに招聘したタイ人のシリサック・ヨーヤータイ監督と前田コーチの二頭体制が実を結んだ「タイ・ホンダFC」は2部リーグで優勝。クラブにとって10年ぶり2度目となる1部昇格を達成する。

　ちなみに、このシリサック監督（愛称ピトイさん）は、タイ国内でもまったく無名の指導者だったが、ここでの手腕が認められたのちに、代表コーチに就任。今年1月のアジアカップの大会中、前任監督の更迭を受け、タイ代表暫定監督に就いた人物だ。

「この年のチームは結構強かった。10月に遠征で来ていた鹿島アントラーズと親善試合をやって負けたんだけど、良い勝負ができていた。ピトイさんは人間性が素晴らしかったし、チームメイトのタイ人たちも、俺のことを評価してくれていた。良い関係ができていたと思う。

　だけど、タイの選手たちの多くが疲れたら休むし、キツくなると逃げる（苦笑）。向こうで聞いた話だと、いま生まれた世界でのヒエラルキーは変えられないから、現世では徳を積んで、来世で高い階層に生まれることを期待する。そういう考え方があるらしくて。だから現世では、下手に頑張ろうとはしないんだって（笑）。そうしたタイの人たちの文化や信仰も理解して慣れていく必要があった」

「助っ人」としての自覚。

　昇格の喜びも束の間、クラブの運営方針をめぐって、コーチの前田以外の日本人スタッフが退団。新たに獲得した外国人FWの不振もあって、'17年の1部リーグでは18チーム中16位と振るわず。1シーズンでの2部降格を余儀なくされる。そのなかで、秋本自身はリーグ戦32試合に出場、3得点と奮闘する。

「2部と1部で、そこまで大きなレベルの差は感じなかったけど、外国人選手の質は違っていた。1部になると、どのチームにも“サッカーを知っている”上手いブラジル人やスペイン人のFWがいるし、ヨーロッパの元代表クラスや、身長190cmを超えるゴッついアフリカ系の選手も必ずいた。そういう選手たちがペナルティーエリアの中に入ったら、イチかバチかで全部勝負に来る。そうしないと評価されないから。日本だと組織で崩そうとするけど、向こうではまず個人。

　結局そういう最後の決めるか決められないかのところで、いかに止めるか。タイでは自分も助っ人なんだから。そこで止められなかったら俺に価値はないワケで。組織での守り方なんて、あって無いようなものだから。最後は自分が止めるかやられるか。そういうところでやられちゃダメなんだって意識は、日本にいたときより以上に強く生まれました。あといつの間にか、日本人をナメんじゃねぇぞって気持ちでプレーするようになっていましたね」

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