芽生えてきた危機感。

　タイに来た時点で、日本に戻るつもりはなかった。マレーシアやベトナムなど、違うアジアの国でプレーしたい希望もあった。だが、昨年は2部でも成績は低迷。そこにいる自分に対して、言いようのない危機感が芽生えてきたのだという。

「このままだと、サッカー選手としての自分が終わっちゃう気がして。毎日の練習からして、やっぱり楽なんですよ。あれっ、俺、今日ボールに触ったかなって思うくらいで。もう一回勝負のできる状態に自分を高めたい。動ける自分に戻したい。

　そんなことを考え始めたタイミングで、去年、石崎（信弘）さんが藤枝の監督になったのを知って。イシさんの練習が厳しいことは聞いていたし、藤枝は自分の実家から一番近いクラブだったんで。残りの現役生活、自分がプレーする姿を両親に見せたかったこともあって。いくつかの希望がうまく揃ったチームが、藤枝だったんです」

「タイ・ホンダFC」からは契約延長のオファーもあったが、「少し考える時間をください」と返答を保留したところ、数日後には「来年の契約は結びません」との連絡があっさりLINEで届いた。これもまたタイの流儀らしかった。

J3の舞台で躍動する秋本。

　いまは朝、目が覚めると、疲れの溜まった身体が重たく感じることもある。それでも、実際1月のキャンプから石崎監督のもとで練習をしていると、日本に戻って来たばかりのときは出なかった前への一歩が、出るようになってきた。開幕からここまで5試合、3バックの中央でフル出場。4節のC大阪U-23戦では思わぬ大量失点があったものの、そのほかの試合はすべて無失点の守備陣を引っ張っている。

「今年の藤枝がJ3でどこまでやれるのか、予想はつかないけど。このチームは必死にやれる。走れるし、戦える。声も出せるし、頑張れる。そこが良いところ。クオリティはこれから、まだまだ上げていくべきだけど。それ以前にまず必要なものが、このチームにはある。去年は難しい時期もあったと聞くけど、そこをガマンしてやり続けてきたことが、いまに活きているんじゃないかな」

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