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藤枝36歳DF秋本倫孝の心に刺さった、
タイの地で戦う日本人の姿。
text by
渡辺功Isao Watanabe
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/04/11 10:00
タイでの生活でひと皮剥けた36歳秋本倫孝。ベテランがJ2昇格を目指す藤枝MYFCを牽引する。
強化に着手していたタイ・ホンダFC。
「タイ・ホンダFC」はその名の通り、本田技研工業の現地法人を母体とするクラブで、この前年から滝をはじめとする日本人スタッフによる強化に着手。かつては工場で働きながらプレーをする社員選手が中心だったが、ほとんどがプロ契約となり、このシーズンはタイの2部に相当するリーグで戦っていた。
「コーチの前田仁崇さんは、以前日本のHonda FCで監督をしていた人で。練習試合なんかで対戦して、俺のことをよく知ってくれていて。『獲ったほうがいいよ』と、前田さんが滝さんに推薦してくれたこともあって。契約できることになったんです」
チームの拠点は大都会バンコクで、練習場も新設されたばかり。その昔は「出た試合数に関係なく、工場の総務のおばちゃんが、選手の年俸やボーナスの金額なんかを気分次第に決めていて。そのおばちゃんにどうやって気に入られるかが、勝負だったらしい(笑)」のだが、滝らが体制を整えたことで、しっかりとしたクラブ運営がなされており、下部リーグではありがちな給与の遅配や未払いもなかった。
海外生活で痛感したこと。
言葉の壁はもちろんあったが、すでにタイで何年間も過ごしてきた日本人チームメイトの手助けもあって、初めての海外生活にも、さほど不都合は感じなかった。むしろ痛感したのは、これまで自分の過ごしてきた環境が、いかに恵まれていたかだった。
「向こうで出会った日本人って、みんな自分の身体ひとつ、スパイクひとつで勝負している選手ばっかり。何の後ろ盾も実績もないところから這い上がって、世界中から色んな選手が集まるなかで、自分をアピールして認めさせて。契約書なんて関係ない。いつクビになってもおかしくない。ケガしたら終わりのなか、サッカーで稼いでメシを食おうって連中だから。俺はサッカーをやりたいんだっていう想いの濃さがまるで違った」