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日本シリーズ“幻”の完全試合。
「ストッパー岩瀬の13球」を追う。
posted2019/04/12 11:30
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Kyodo News
時代がひとつの区切りを迎えようとしている。そんな今、平成のプロ野球シーンを振り返ってみて、忘れられない試合がある。
2007年の日本シリーズ、中日ドラゴンズ対日本ハムファイターズの第5戦である。史上初めてとなる「継投による完全試合」で決着したシリーズと言えば、記憶にある人も多いだろうか。
中日ベンチが、落合博満監督が、8回までパーフェクト投球を続けていた先発ピッチャー山井大介に代えて、ストッパー岩瀬仁紀をマウンドに送った、あのゲームだ。
じつは、あれ以来、自分ではずっと“忘れもの”をしたような感覚があった。
あの日、現場にいて、記者席から8回表が終わるのを見ていた。そして、ごく自然にシミュレーションしていた。
山井は交代だろう。9回のマウンドには岩瀬が上がるのだろう。完全試合だけど? 完全試合だけど……。
深く考えるでもなく、そう思ったのだ。
だが、この交代に対する世の中のバッシングは凄まじいものだった。
『落合の非情采配、勝利至上主義がプロ野球ファンの夢を壊した――』
そういう批判が世の中に渦巻いていたことを試合の後に初めて知った。本来、そういう空気には最も敏感でいなければならない立場なのに、あの場面では、世間と自分との大きなギャップを感じざるをえなかった。
だから、嵐の中で祝祭をしたかのようなあの日のことが心に残っていた。
現場と世の中のギャップの正体とは?
あのギャップの正体は何だったのだろうか。
日本プロ野球界で最も多くの試合に登板し、最も多くのセーブを挙げたストッパー岩瀬が引退を決めた2018年の晩秋、名古屋に本社を置く「東海テレビ放送」スポーツ局のプロデューサー山本貫太氏と会った。
陛下が生前退位し、「平成」が終わると言うことも決まっていた、そんな時期だった。
山本は、あの2007年の日本シリーズ第5戦を題材に、岩瀬のドキュメンタリーをつくろうとしているということだった。