選手たちも、世の中との隔絶を抱いていた。

　そして話すうちにわかったのは、あの日、現場にいた彼も、やはり同じように、9回のマウンドに上がるのは岩瀬だろうと、なんの違和感もなく考えていたということだった。

　現場にいた我々と、世の中とのギャップは何だったのか。

　ずっと放ったらかしにしたまま、忘れそうになっていたこと。その答えを探るべく、ドキュメンタリー制作を手伝わせてもらうことになった。

　インタビューした関係者の数は膨大だった。史上初の大記録を目前にマウンドを降りた山井をはじめ、当時、コーチとして投手起用に関する全権を握っていた森繁和、正捕手だった谷繁元信、バックを守っていた井端弘和、荒木雅博、森野将彦というドラゴンズ黄金期の面々から、当時、日本ハムの中心選手として9回に岩瀬と対峙した金子誠、高橋信二、小谷野栄一にまで及んだ。そして、それらの証言をもとに最後に岩瀬と向き合った。

　その中で見えてきたのは、あの日のグラウンドに立っていた野球人たちも我々と同じように、後から知ることになる世の中との隔絶を抱いていたということだった。

完全試合だろうと、岩瀬を出すのは当然。

　例えば、ショートを守っていた井端は、完全試合のままゲームが進んでいく中、1－0とリードして迎える最終回を前に、こんな心境だったという。

「もうあれから10年以上も経つので言いますけど、僕の中では『（ピッチャーを）代えろ』と思ってました。ずっと最後は岩瀬さんで勝ってきたチームだし、山井には失礼だけど、完全試合だろうと、正直、岩瀬さんの方がはるかに信頼があるし、最善の策だと思っていました。まして50年以上も日本一になっていない球団が勝つチャンス。その試合で勝つために、あそこで岩瀬さんを出すのは当然です」

　不思議なのは、完全試合の最中に、普通なら継投など考えもしない展開の中に、あの日本一をかけたゲームの9回においては、誰もが「岩瀬」の顔を思い浮かべていたことだった。

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