サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
中島翔哉、堂安律、久保建英らは
「令和」の国民的ヒーローとなれるか。
posted2019/04/04 17:00
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Naoya Sanuki
東京ドームに残った多くのファンに、引退を決めたイチローが晴れやかな笑顔で手を振っている。
蘇ったのは、もう50年近くも昔の記憶だ。当時小学1年生だった私は、居間の小さなテレビで長嶋茂雄さんの引退セレモニーを見つめていた。栄光の背番号3が、涙を拭いながら後楽園球場を1周している。隣では、関西人のくせになぜか中日ドラゴンズの熱狂的なファンだった父親が、なんとも言えない複雑な表情をして画面を睨みつけていた。
今、その胸中を想像すれば、きっと愛するドラゴンズの20年ぶりのリーグ優勝がすっかり脇に追いやられてしまった腹立たしさ(引退試合は中日とのダブルヘッダーだった)と、憎きジャイアンツの象徴であり、自分と同い年のスタープレーヤーが現役を退くことへの一抹の寂しさが、ないまぜになっていたに違いない。
ファンとアンチの壁を超越した存在が、「長嶋茂雄」だった。そのプレーや生き様を、折に触れて自らの人生に重ね合わせた人は、父親に限らず少なくないはずだ。
長嶋さんとイチロー、カズ。
感服せざるを得ないのは、プロ野球の歴史の長さとその底力だ。
長嶋さんとイチロー。なにしろ、日本国民のおそらくは9割近くが知るスーパースターを、誰もが認める不世出の天才アスリートを、半世紀と経ずして2人も生み出してしまったのだから。イチローがメジャーの歴代シーズン最多安打記録を更新するのは、長嶋さんの引退からちょうど30年後のことである。
翻って、サッカーはどうか。
日本プロ野球の誕生は1934年。今から85年も前だ。それに対してJリーグはたかだか26年の歴史しかない。日本サッカーはJリーグ創設以降、急激な成長曲線を描いてきたとはいえ、やはり60年の差はとてつもなく大きいのだ。
日本国民の大半がその名前を知っていて、圧倒的なオーラを放ち、そして多くの人がその人生を投影できる対象となれば、サッカー界ではカズこと三浦知良選手しか思い浮かばない。