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高木美帆「みんなで抜いた」世界新。
小平奈緒、コーチ、強敵への感謝。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byTakao Fujita
posted2019/03/14 08:00
帰国後、高木は2月の世界スプリントの500mで得た発見が今回の記録にもつながったとコメントした。
小平とのリスペクトある戦い。
もやもやした状態はシーズンに入ってからもしばらく続いた。しかし、そんな煮え切らない気持ちに晴れ間が広がったのは、昨年12月の全日本スプリント選手権(帯広)だ。
小平との、互いをリスペクトしながらのスポーツマンシップあふれる戦いは、見ている者にさわやかな感動を与え、高木美自身にはエネルギーを与えた。
「W杯前半戦もなかなかうまくいかなかったのですが、小平選手と全日本スプリント選手権で争って、自分の気持ちに火がついたのもありました」
帯広で気持ちにスイッチが入ると、年が明けてからは主要大会の連続となり、あとは流れに身を任せるだけだった。
一緒に戦える人がいる幸せ。
目の前のレースに集中し、世界のトップスケーターたちと競いながら、気づいたことがある。
「一緒に戦える人がいるのが大きいのではないかと思うんです」
その気持ちは世界記録をつくったことによって、より明確になった。
「世界記録はうれしいけど、満足感はないです。なんとなく感じていたのですが、記録って、保持することに意味はない。記録の意義は、みんなで抜きに行くというのが大きいのかな。抜かれないようにというよりは、さらに自分が更新していくように頑張ります」
1500mのレース後は、同走だったイレイン・ブスト(オランダ)にも「おめでとう」と声を掛けられたという。ブストは平昌五輪金メダリストであり、五輪4大会で通算5つの金メダルを持つ最強スケーター。平昌五輪のこの種目でブストに続く銀メダルだった高木美は、今年2月の世界距離別選手権でも、優勝したブストに次ぐ2位だった。
大事なところでいつもかなわなかった強敵。プライド高きブストから世界記録樹立を祝う言葉を贈られた高木美の胸には、スケート仲間への感謝の気持ちがあふれていた。