フランス・フットボール通信BACK NUMBER
インドとパキスタンの間でサッカーを。
レアル・カシミールが歩む数奇な運命。
text by
ロムアルド・ガデベクRomuald Gadegbeku
photograph byFacebook/RealKashmirFC
posted2019/03/12 07:30
昨季インドリーグ2部を制し、2018年には1部リーグでいきなりの3位! カシミール地方の誇りとなった“雪豹”たち。
煙草を吸い、ドラッグに手を出す子供達。
この困難な時期にサンディープ・シャトゥーと、友人であり地元の新聞『カシミール・モニター』の共同経営者でもあるシャミム・マラジが敢然と立ちあがった。
シャトゥーが回想する。
「洪水後のある日、街を散策していると、大勢の子供たちが何をするでもなくぶらぶらしていた。中には煙草を吸っている子供やドラッグに手を出しているものもいた」
ふたりは数千個のサッカーボールを買って、子供たちに無料で配布した。
マラジが語る。
「子供たちを放ってはおけない。彼らに気晴らしを与えたかった。そうしているうちに彼らは自然とチームを作り始めて、大会まで開くようになった。それで『子供たちのためにちゃんとしたものを作ろう。クラブを創設しよう』ということになったんだ」
そうして生まれたのが「レアル・カシミールFC(RKFC)」であった。
世界で最も軍事色の強い地域のプロサッカークラブである。
プレミアリーグで活躍した選手が監督に。
創設以来RKFCはユースの大会を開催し、トップチームのためのタレントを発掘した。最初の2年間は地域の大会にしか参加できない厳しい時期が続いたが、2016年にはインド協会からIリーグ2部への参加が認められたのだった。
1年目はリーグでの試合に適応するために費やされ、躍進は次の年に始まった。
英国のアバディーンに生まれ、'90年代にグラスゴー・レンジャースでディフェンダーとして鳴らしたデビッド・ロバートソンが監督に就任したのだ。
はじめてカシミールに到着した日、空港からクラブオーナーのサンディープ・シャトゥーのオフィスに向かうタクシーの中で、ロバートソンは大きな不安に襲われた。彼が当時を回想する。
「インドを訪れるのは初めてで、冬だったから雪が降っていた。『こんなところでいったい何をしているんだ?』と自問して、本気で帰りたくなった」