フランス・フットボール通信BACK NUMBER
インドとパキスタンの間でサッカーを。
レアル・カシミールが歩む数奇な運命。
posted2019/03/12 07:30
text by
ロムアルド・ガデベクRomuald Gadegbeku
photograph by
Facebook/RealKashmirFC
インドといえば、かつてのスーパースターたちを集めて2014年に華々しく開幕した「インディアン・スーパーリーグ」が有名だが、FIFAに正式な国内リーグとして公認されているのは「インドリーグ(Iリーグ)」であって、スーパーリーグはカップ戦扱いである。ACLへの出場資格を持つクラブも当然ながらIリーグ所属クラブであってスーパーリーグのクラブではない。
そのIリーグ1部に今季、カシミール地方に本拠を置く「レアル・カシミールFC(RKFC)」が昇格し、3位という好成績を収めた。中国とパキスタンが領有権を主張し、第2次大戦終了後国際紛争が絶えなかった同地域で、サッカーはどんな意味を持ちどんな役割をはたしているのか?
『フランス・フットボール』誌1月22日発売号でロムアルド・ガデベク記者がレポートするのは、今も緊張が続く地域でのサッカーと人々の結びつきである。
監修:田村修一
インドとパキスタンの間。内紛の地。
「カシミール人の身体の中にはサッカー好きの血が流れている。私たちはその眠っている遺伝子と文化を覚醒させただけだ」と、レアル・カシミールFCの共同オーナーであるサンディープ・シャトゥーは微笑みながら語った。しかし彼のクラブがここまで歩んできた道のりは、想像を絶するものがある。何故なら彼らが本拠を置く都市シュリーナガルは、ジャンムー・カシミール州の夏の州都であり、同州は西をパキスタン、東を中国と接していて、両国が領有を主張する地域であるからだ。
この地で最も目にするユニフォームは緑の軍服で、60万人のインド軍兵士が警備のために動員されている。彼らが警戒するのは、1989年以来パキスタンの支援のもとに活動を活発化させている独立運動であった。ここ10年で400人以上の犠牲者を出すほどそれは激化しているのだった。
ところが4年前に、別の悲劇がこの地域を襲った。
モンスーンの豪雨により起こったカシミール大洪水は谷間の地域を完全に飲み込み、450人を超える人たちが犠牲となったのだった。