フランス・フットボール通信BACK NUMBER
インドとパキスタンの間でサッカーを。
レアル・カシミールが歩む数奇な運命。
text by
ロムアルド・ガデベクRomuald Gadegbeku
photograph byFacebook/RealKashmirFC
posted2019/03/12 07:30
昨季インドリーグ2部を制し、2018年には1部リーグでいきなりの3位! カシミール地方の誇りとなった“雪豹”たち。
「ここでは練習すること自体が大変」
だが、地元の人々の熱狂とふたりの会長の明確なビジョンが、彼の不安を一掃した。地元の選手たちのレベルの高さにも驚かされた。
翌年の夏には14人をスコットランドでの合宿に連れて行くことになった。
「経験を得るための合宿だったが簡単ではなかった。5日間に4つのプロチームと試合をした。最初の2試合には敗れたが、続く2試合は引き分けることができた。
この遠征がすべてのベースになった。われわれは覚醒した。今はスコットランド2部で降格争いをする程度のレベルにはある」
戦術は最もシンプルな“キック・アンド・ラッシュ”をロバートソンは採用した。
「ここでは練習すること自体が大変なんだ。ひとつのピッチを複数のチームで分けて使わねばならないからだ。ピッチはどこも満員状態だ」とロバートソンは語る。
多くの困難はあるが……称賛されている。
困難はそれだけではない。
「ハータール(インド・パキスタン地域における閉店ストライキ)」やインターネットの切断、夜間外出禁止令などは日常茶飯事であった。それらを避けるために、練習や試合を早朝におこなわねばならないことすらあった。
他方でセキュリティーに関しては、危険は何も感じなかった。ロバートソンが言う。
「来る前にはそこら中で銃声が聞こえると言われた。でも危険な地域からは離れているから、中心街を静かに散歩することができる」
2年目にRKFCは2部リーグ優勝を果たし、1部昇格を果たした最初のカシミールのクラブとなったのだった。
“雪豹たち(“スノーレオパルズ”。RKFCの愛称)”は、地域の注目と称賛を集めた。
彼らとスタジアムを共同使用する12のクラブのひとつ、「J&Kバンク・フットボール」に所属するニサールは、練習の後でこう語った。
「彼らの週末の試合はすべて見ている。僕らの誇りであり模範でもある。シュリーナガルという街の良いイメージを彼らが広めてくれている」
それこそがクラブ創設の意図でもあったとシャミム・マラジが強調する。
「レアル・マドリーを意識してレアルという名前をつけたと多くの人は思っているが実はそうじゃない。英語の“リアル(現実)”を意味していて、人々にこの地域の“現実”――ここが無法地帯ではないこと――を知ってもらいたかった。目的はほぼ達成されたと思う」