プレミアリーグの時間BACK NUMBER
驚愕の交代拒否も「ケパの功名」。
サッリのチェルシーが失地回復中。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byUniphoto Press
posted2019/03/05 11:00
チェルシーで突如巻き起こったケパ(右)とサッリ監督の騒動。カバジェロとしてみれば何とも言えない気持ちだっただろう。
ファンとの関係もケガの功名。
イタリア時代から「頑固者」で知られる指揮官は、マンCに惨敗した翌日からホームゲーム前日のホテル宿泊を命じた。ミーティングを重ねた末に戦術の微調整を決めたのであれば、ケパ事件を含む苦境も無駄ではなかった。
ファンとの関係に関しても「ケガの功名」がある。
カバジェロの起用は、先発を告げる場内アナウンスへの反応を見る限り、大方のファンに歓迎された。それ以上に勝利を確定した84分の追加点が、観衆の心を震わせた。
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キーラン・トリッピアーによるオウンゴールのきっかけは、足元の技術が高いとは言い難いカバジェロが大きく蹴り出したロングキックだった。前節に続いて予想外の敗北を味わったトッテナムのファンには気の毒だが、地元ライバルとの大一番における勝利ほど喜ばしいものはない。
トッテナムは昨年11月のリーグ戦で、サッリ新体制の調子と評価の低下を招く初黒星をつけられた因縁の相手である。その相手から内容ある白星を奪った直後のスタンフォード・ブリッジには、ホームで重大な勝利を収めた際に流れる『ワン・ステップ・ビヨンド』が鳴り響いた。
安定したプレーを見せられるか。
以前の本コラムで触れたように、敵地エティハド・スタジアムでの惨敗後、マンCのファンから傷口に塩を塗り込まれるような思いで聞かされた曲である。
1試合少ない消化試合に勝てば4位アーセナルと勝ち点で並び、3位トッテナムにも4ポイント差と迫れる状態にした。その曲を勝利後に聴きながら、2週間に及ぶ悪夢を脱したと感じたホームの観衆は多かったに違いない。
とはいえ、いきなり無敗街道への復帰が見込まれるわけではない。その点は、指揮官も選手たちも承知しているだろう。サッリはインタビューで、「安定したパフォーマンスの必要性」に言及している。そしてGK選びという新たな難題も抱えることになった。
だが少なくともチェルシーは、監督が求心力を失い、チーム内のモラルもスピリットも欠く個人の集まりではない。新監督の下、選手もファンも心を1つにした集団として今後の戦いに挑む基盤を取り戻した。
「雨降って地固まる」ではなく、「ケパ降格で地固まった」サッリのチェルシーである。