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ベンゲルが称賛し、ポグバが憧れた
“未完の天才”ディアビの儚い引退。

posted2019/03/07 08:00

 
ベンゲルが称賛し、ポグバが憧れた“未完の天才”ディアビの儚い引退。<Number Web> photograph by Uniphoto Press

チェルシー時代のフェルナンド・トーレスとボールを競り合うディアビ。ロマンのあった大型MFがスパイクを脱いだ。

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寺沢薫

寺沢薫Kaoru Terasawa

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Uniphoto Press

 未完の大器。このフレーズが、彼ほど似合うフットボーラーはいなかった。

 2月25日、アブ・ディアビが母国フランスのメディアでインタビューに答え、現役引退を表明した。ディアビは1986年生まれの32歳。パリで生まれ、育成の名門クレールフォンテーヌで学び、2004年にオセールでプロデビューを果たすと、19歳でアーセナルに引き抜かれた。

 北ロンドンでは10シーズンを過ごし、'15年にマルセイユへ移籍し、'17年まで在籍。その後の“浪人”期間を含め、プロキャリアはちょうど15年だった。

 ところが、その15年間でディアビが公式戦のピッチに立った回数は、3クラブとフランス代表を合わせて215試合しかない。平均しても1年間でたった14試合だから、決して多くない。

 その理由は、相次ぐケガである。彼はアーセナルに在籍した3339日間のうち、実に半分近い1554日間も負傷離脱していた。負傷の回数は「42回」を数え、太ももやふくらはぎなど筋肉系の負傷に加えて、足首の骨折、膝の前十字靭帯断裂という重傷もあった。

ビエラの後継者になり得た。

 上手い。強い。速い。だが、いない――。それがディアビという選手だった。19歳だった彼をフランスで発掘したアーセン・ベンゲルは、まるで宝石を見つけたというように、嬉しそうに彼への期待を語っていたものだ。この痩身のMFがパトリック・ビエラの後継者に、アーセナルの中心になれると、紛れもなく信じていた。

 実際、長いリーチを存分に生かしたボール奪取、大きなストライドでスルスルと前進していくドリブルはまさにビエラのそれを彷彿とさせた。それに加えて、元々は攻撃的なポジションが得意だったからスキルもあった。

 手足がとても長いが、ボールの扱いにぎこちなさはひとつもなく、時にはまるでジネディーヌ・ジダンのように美しく、流れるようなボールタッチで相手をかわすこともしばしばだった。比較対象だったビエラ自身も、「テクニックのレベルやドリブルに関して、ポテンシャルは私より上だった」と語ったことがある。

【次ページ】 ベンゲルもポグバも惚れた。

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