プレミアリーグの時間BACK NUMBER
驚愕の交代拒否も「ケパの功名」。
サッリのチェルシーが失地回復中。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byUniphoto Press
posted2019/03/05 11:00
チェルシーで突如巻き起こったケパ(右)とサッリ監督の騒動。カバジェロとしてみれば何とも言えない気持ちだっただろう。
新たに用いたプランAダッシュ。
マンCを封じてスコアレスでPK戦まで持ち込んだ戦いは、監督の授けた策を軽視するような集団には不可能なことだ。しかもその戦術は「プランB」と呼べないまでも、「プランAダッシュ」と形容できた。
システムは基本の4-3-3のまま。「サッリのペット」と呼ぶ国内紙もあった、ジョルジーニョの中盤深い位置でのプレーメーカー起用も不変。しかし、従来よりもラインを下げてコンパクトに守りながら、相手ボール時には4-5-1、時には6バックに変形してスペースを与えなかった。
120分間でのMVPを選ぶなら、エデン・アザールかエンゴロ・カンテだろう。前者は、95分まで“偽9番”をまっとうした。後者は、従来よりも深い位置でボール奪取に奔走しつつ、アザールの折り返しに合わせたシュートで決定機にも絡んだ。いずれも、チームが戦前のプランを実行しようと努めた証拠だ。
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サッリの会見での言動にしても、GK交代を諦めた直後にはベンチを去りかけるほど激怒していながら、冷静かつ理性的に会見をこなした振る舞いを見直す向きもあった。
だが、多くの報道は逆の反応を望んでいた。チェルシーOBで辛口解説で知られるクリス・サットン)のように、「2度とチェルシーでプレーさせるべきではない」という意見の持ち主もいたからだ。
ケパを先発から外し、本人も謝罪。
彼らは、続くトッテナム戦でサッリがケパにベンチを命じる可能性は低いと睨んでいた。フロントが7200万ポンド(約105億円)近い移籍金を支払った新戦力を外し、代わりに今季リーグ戦で起用していない37歳にゴールを任せる度胸など、“選手に負ける”ような監督にはできない、とみなしていたのだ。
ところが、サッリはケパをスタメンから外した。
試合前には「私自身の判断だ」とも公言した。ケパ自身はチーム内外で謝罪を行ない、クラブは週給相当額の19万ポンド(約2750万円)の罰金を下した。然るべき経過の後に、チームの「ボス」として配下の一員にけじめをつけさせたのである。
道徳面では妥当な措置だが、戦力面では危険な賭けと言えた。開幕から正GKケパに異論を唱える者などいなかった。また対戦相手のトッテナムは昨季終盤に、カバジェロが3失点を喫して逆転勝利を許している。
それでもサッリは、意外な「肝っ玉」を示すことになった。