Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
《1996年決勝 松山商×熊本工》本人が振り返る“奇跡のバックホーム”「お前、あのアウトになったランナーだろう」と言われ続け…
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byJIJI PRESS
posted2021/08/29 06:02
1996年決勝、“奇跡のバックホーム”で熊本工・星子は惜しくもアウトになった
矢野から星子に届いた一通のメール
一番大事なことは失敗をした後、何をするべきか。一度は野球を捨てた星子は、高校野球の店を開店させることを決意。自らカウンターに立ち、全国から訪ねてくる客や脛に傷持つ元高校球児、プロの選手などと毎晩、高校野球談義に花を咲かせる。
「でも、うちは高校野球の店ですからね。プロが来ても『ここではプロの話はするな! オーラも出すな!』と厳しく言っています。寺原(隼人=ソフトバンク)なんか『初心に戻れました』と帰って行きましたよ」
店の一番目立つ場所に“熊本の野球、覚醒”という書を掲げた。星子はこの店から熊本の高校野球を再興させたいと考えている。「たっちあっぷ」。それはいつの日か、届かなかった数センチの向こう側へ行くためのスタートの場所でもある。
7月。“奇跡のバックホーム”を検証したテレビ番組が放映された後、矢野から星子宛にこんなメールが届いた。
「あの番組を見た知人に、松山で『ばっくほーむ』という店をやれと勧められたよ」
“奇跡のバックホーム”から20周年を迎える来年。星子は手始めに、あの時の両校のメンバーでの再試合を企んでいる。