スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
右足切断危機から帰還のカソルラは、
崖っぷちビジャレアルの救世主か。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byUniphoto press
posted2019/02/07 08:00
かつてスペイン代表、アーセナルで輝いたサンティ・カソルラ。飛躍の舞台となったビジャレアルで全力を尽くす。
アキレス腱が8cmも蝕まれた。
サンチェスは患部を切開した際、絶句したという。3種類もの細菌がかかとの骨を侵食し、アキレス腱を8cmも蝕んでいたからだ。もう少し発見が遅ければ、足の切断を強いられていたかもしれない状態だったのである。
その後も失った腱を再構築すべく数度の手術を重ね、術後はサラマンカで開業している元スペイン代表トレーナー、フアン・カルロス・エラエスの下でリハビリに励んだ。
その間、何よりも辛かったのは子供の通学のため家族をロンドンに残し、1人ホテル住まいの日々を送ることだったという。
「リハビリを終えてホテルに戻ると、1人であることを痛感するんだ。子供たちは『行かないで、家に残って』と言ってくる。迷いが生じたこともあったよ」
アーセナル退団で古巣入り。
家族の側にいたい。切実な思いをこらえ、孤独な戦いを続ける原動力となったのもまた、家族の存在だった。
「息子が『プレーしてほしい、もっとプレーする姿が見たい』と言ってくれるんだ。その言葉が希望になった。何より自分自身が怪我で引退することが嫌だった。辞める日は自分で決めたかったから」
結局サンティはピッチに戻れぬまま、昨季終了と共に契約満了でアーセナルを退団。周囲からはトップレベルのリーグにこだわる必要はないと言われたが、本人は再びヨーロッパのトップリーグでプレーするという目標を捨てていなかった。
ビジャレアルから声がかかったのは、そんなタイミングのことだ。
プレシーズン中にどこまでやれるか確認し、戦力として計算できるなら契約したい。旧知の会長からの申し出を断る理由はなく、サンティは二つ返事で古巣のトレーニングに参加した。