スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
右足切断危機から帰還のカソルラは、
崖っぷちビジャレアルの救世主か。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byUniphoto press
posted2019/02/07 08:00
かつてスペイン代表、アーセナルで輝いたサンティ・カソルラ。飛躍の舞台となったビジャレアルで全力を尽くす。
すでに3ゴール4アシスト。
そこからはトントン拍子でことが進んだ。7月17日の練習試合エルクレス戦で636日ぶりの実戦復帰を果たすと、8月6日にはクラブが正式契約を発表。そして3日後には、本拠地エスタディオ・デ・ラ・セラミカにてプレゼンテーションが行われた。
スペインの著名なマジシャン「マゴ・ジュステ」が演出したイリュージョンにより、ピッチ中央に置かれた大きなカプセルの中から登場したサンティは、集まった4000人超のファンの前でこう言った。
「これだけでもう、今までの苦しみすべてが報われた気分だ。トップレベルに戻れるかは分からない。でもそのために全力を尽くすことは約束するよ」
あれから半年が経過した現在、サンティは全公式戦の約80%に出場し、サイドハーフやボランチとしてビジャレアルの中盤を支えている。リーガでは22試合中19試合に出場し、3ゴール4アシストを記録。そのパフォーマンスは2年のブランクを忘れさせるものだ。
かかとに移植されたタトゥー。
痛みが完全に消えたわけではない。
つぎはぎだらけのかかとには、愛娘の名のタトゥーが彫られた左腕の皮膚の一部が移植されている。無邪気な息子が「パパの足、変わってるね」と不思議がるという痛々しいその足を一目見れば、今彼がピッチに立っていること自体が奇跡なのだと理解できるだろう。
現在ビジャレアルは絶不調で、リーガでは降格圏の19位に沈んでいる。クラブは先日、今季2度目の監督解任を発表したばかりだ。苦しい状況が続く。しかし、人生最大の難関を乗り越えてみせたサンティが、これしきで挫けることはないだろう。
何より、そんな彼の復活のストーリーにバッドエンドは似合わない。あってはならない。シーズンの締めくくりは、あの屈託のない笑顔と共に。そう切に願う。