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ベテラン藤野、新鋭上野は伸び盛り。
フェンシング高円宮杯を見逃すな! 

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宮田文久

宮田文久Fumihisa Miyata

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photograph byYasunobu Seo

posted2019/01/23 07:00

ベテラン藤野、新鋭上野は伸び盛り。フェンシング高円宮杯を見逃すな!<Number Web> photograph by Yasunobu Seo

昨年12月の全日本選手権で優勝インタビューを受ける藤野大樹。4度目の日本一だが、まだ五輪出場はない。

試合後、なぜコーラを?

 実際、昨年の全日本選手権では藤野と同じ1987年生まれの徳南堅太(男子サーブル)、見延和靖(男子エペ)がともに優勝。かつては同じチームに所属していた同級生の活躍に、日々刺激を受けているという藤野だが、全日本で印象的だったのは、決勝の試合後に、美味そうにコーラを飲み干す藤野の姿だった。

「あ、見てました? コーラを飲むのには、理由があるんです。2011年に初優勝した全日本では1回戦で足をつってしまって。普段からお世話になっていた栄養士の方に相談したら、『コーラを飲みなさい』と。

 普段は止められているコーラを、なぜだろうと思ったんですが、要は糖分を摂取しなさい、ということだったんですね。それで、スポーツドリンクに加えてコーラを飲んで、優勝することができた。以来、試合の時は、必ずあの赤いコーラを飲むんです。世界中、どこでも手に入りますから」

 高円宮杯でも、まるで勝利の美酒のように、コーラを飲み干すことができるだろうか。苦境を知る選手だからこそ、その戦いぶりは、胸を熱くさせるものがある。

気持ちが9割のニューカマー。

 一方で、年長世代を下から突き上げていこうとしているのが、上野優斗だ。

 とはいえ、12月14日付の国内ランキングでは10位。5位の藤野も含めた上位8名の選手が名を連ねるナショナル・チーム・メンバーの中にも、まだ上野の名前はない。

 しかしながら、上野の全日本での快進撃は痛快だった。準決勝では、ナショナル・チームのキャプテンを務める松山を15-14で下し、決勝進出を決めた。

「技術だったら、松山選手を含めて、僕がこれまで戦ってきた他の選手の方があると思うんです。自分の長所は、気持ちの強さ。本当に、気持ちが9割です(笑)。チャレンジャーの気持ちだから、松山選手にも勝てたんだと思います」

 初々しさを滲ませながら、ニューカマーはこう言ってはにかんだ。「決勝の前日も、緊張して全然眠れなくて……」と照れ笑いする様子は、試合中のアグレッシブさはどこへやら、控えめな性格であることが手にとるように伝わってくる。

ユース五輪優勝の妹と好対照。

 昨年のユース五輪、女子フルーレ個人で金メダルを獲得した妹・優佳(星槎国際高)とは好対照だ。親子鷹や兄弟姉妹で打ち込む選手が多いフェンシング界でも、上野兄妹は期待のふたりだが、全日本決勝で敗れた妹は、表彰が行われた壇上でも、試合後の囲み取材でも、ずっと悔しさを顔に滲ませていた。

「落ち着いて自分をリセットできる」ことが自分の長所だという兄は、「全日本決勝は、先にマッチポイントになって、気持ちが弱くなってしまった」と、冷静かつ客観的に試合を振り返った。

「でも、全日本で2位になれたことがすごく自信になって、オリンピックを意識できるようになったんです。まだ距離はあるけど、高円宮杯を含めたシニアの試合で勝たないといけないという過程が、一気に身近なものに感じられるようになりました。大学生になって、ナショナルトレセンで日本代表の選手たちと日々練習できているのも自信につながっています」

【次ページ】 「相手が動いたら2倍は動く」

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