球体とリズムBACK NUMBER
“童顔の暗殺者”スールシャールが、
マンUに笑顔と攻撃性を取り戻した。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byUniphoto press
posted2019/01/18 07:00
スールシャールと言えば赤い悪魔のスーパーサブとして覚えているファンも多いはず。そんな彼が名将となるのか。
ポグバが文字通り水を得た魚。
スールシャールが12月にユナイテッドの指揮官に就いたとき、懐疑的な人々は主にこのカーディフでの失敗を理由に挙げていた。ところが、甘い顔立ちのレジェンドが健やかな笑顔と優しい物腰でチームの空気を一変させると、モウリーニョのもとで硬直していた選手たちは、途端に自らを解き放ち始めた。
ポール・ポグバが最もわかりやすい。世界最高額のフランス代表MFはポルトガル人の前監督と相性が悪く、ロシアW杯を獲った姿とは別人のようなパフォーマンスを見せ続け、モウリーニョ政権末期には出番さえ失っていた。
しかしスールシャールの初陣となったカーディフ戦(奇しくも指揮官の古巣だ)で、リーグ戦では4試合ぶりに先発すると、文字通り、水を得た魚のように躍動し、2アシストを記録。それまではリーグ戦14試合で3得点3アシストにとどまっていたのに、スールシャール就任後は5試合で4得点4アシストと、本来のクオリティーに見合う数字を残している。
就任初日にノルウェー土産。
名門再建のために北欧から呼び寄せられたナイスガイは、クラブに携わる全員を大事にし、誰とでも気軽に話し、冗談を言い合ったりするという。
『タイムズ』紙によると、就任初日にはノルウェーみやげをスタッフに配り、このフットボール史上最も重要なクラブのひとつで働けることの幸運を、互いに感じながら日々を過ごそう、と話して共感を得たそうだ。
組織にポジティブな風を通し、全体の雰囲気を好転させると、ピッチ上ではユナイテッドの伝統に回帰して、のびやかなアタッキングフットボールを展開。前体制と比べると、最終ラインは見違えるほど高くなり、SBの攻撃参加も激増し、なにより選手たちの表情が格段に明るくなった。
12月22日のカーディフ戦から1月5日のFAカップ、レディング戦まで、すべて2点差以上の勝利を収めて5連勝。ただしそれらの対戦相手はトップ中のトップレベルではなく、その意味で先週末1月13日の敵地でのトッテナム戦が最初の本当の試練と言えた。