球体とリズムBACK NUMBER
“童顔の暗殺者”スールシャールが、
マンUに笑顔と攻撃性を取り戻した。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byUniphoto press
posted2019/01/18 07:00
スールシャールと言えば赤い悪魔のスーパーサブとして覚えているファンも多いはず。そんな彼が名将となるのか。
ポチェッティーノとの頭脳戦。
敵将マウリシオ・ポチェッティーノは現在のプレミアリーグで最も評価される戦術家のひとりで、ユナイテッドの正式監督の最有力候補とも噂される。つまり、スールシャール暫定監督の後任候補の最右翼なのだ。そうした状況もこの一戦に興趣を与えていた。
結果から言って、スールシャールはポチェッティーノとの頭脳戦を制した。
2トップとも3トップとも取れる布陣で高めからプレスをかけ、スパーズの手薄なサイドを突いた。試合唯一の得点は、トップ下とも偽9番とも言える役割を任されたジェシー・リンガードの好守から生まれている。
序盤のトラップミスを引きずっていたような相手の右SBキーラン・トリッピアーのパスを読み切ってカットすると、中盤の左にいたポグバにボールを渡す。このフランス代表MFは瞬時に遠くを見渡し、前線で抜け出したマーカス・ラッシュフォードに完璧なロングフィードを送る。
21歳の背番号10はトップスピードのまま対角線に見事なグラウンダーのシュートを沈め、3試合連続得点。このイングランド代表FWもまた、前政権下の約半年間よりも、新監督のもとでのひと月弱に多くのゴールを決めている。
「幸福感をもたらしてくれる」
最大の勝因のひとつがGKダビド・デヘアの信じがたいセーブの連続にあったことも事実だが、当の守護神は試合後に「監督が幸福感をもたらしてくれている。選手たちは見事なプレーを見せ、今のチームはとても強い。これが本当のマンチェスター・ユナイテッドだ」と指揮官への賛辞を惜しまない。決勝点をお膳立てしたポグバも、「彼(スールシャール監督)のもとでチームが再建されていて嬉しい。彼は素晴らしい仕事をしている」と同調した。
笑顔が似合う新指揮官はここまで、周囲の期待を上回る内容と結果を手にしている。優しさと好奇心に溢れる瞳の奥には、優れた知性と静かな闘志がのぞく。就任時には、選手全員に「プレーを楽しんでもらいたい」と話すと同時に、恩師ファーガソンのように「ヘアドライヤーを使うこと(日本で言うところの瞬間湯沸かし器。つまり、激昂すること)も恐れない」と言い、必要とあれば選手たちを叱り飛ばす気構えも見せた。
また、うるさがたのレジェンドたちから批判されることになったとしても、「自分はなにも変わらない」と牽制することも忘れない。