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小笠原満男が掲げたACL優勝カップ。
「キャプテンはあなたですから」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/11/13 17:00
鹿島における小笠原満男の存在感は、まさに別格だ。彼のメンタリティがこのチームを強豪たらしめている。
「キャプテンはあなたですから」
「ミツ、ミツ。どこですか? ミツさん」
スタンド内に設置された表彰台の上はあわただしい。
この日キャプテンを務めた昌子源は、その重さをかみしめる間もなく、左右に目をやる。すると左手から、遠藤康に引っ張り出されるように小笠原が昌子の側へ促される。あっという間にカップは小笠原の手に渡った。
その一連の流れに、鹿島の選手たちのテンションがさらに上がる。小笠原は右手をサポーター席へ差し出し、その後、両手でカップを高く掲げた。
「やっぱり……一番似合うわ。あの人が、一番似合う」
昌子はしみじみそう思ったという。そして「まだまだ俺は追いつけていない」とも。
「『お前がキャプテンなんだから、お前が行けよ』って満男さんには言われた。でも『いえいえ、キャプテンはあなたですから』って。(遠藤)康さんとも『カップをとったらミツさんに掲げさせよう』と話していた。ほんまはソガさんと2人で掲げてもらいたかったけどね。嫌や嫌や言いながら、なんやかんや笑顔やったし、なんやかんや一番嬉しそうやったし。このチームのキャプテンは満男さんやから、よかった」
ゲームキャプテンの重責を果たした昌子は、安堵感を浮かべた。タイトル奪取という使命を果たせたこと。そしてキャプテンが喜んでくれたことが、素直に嬉しい。
「がんばったやつらに話、きいてやって」
今季の小笠原は、クラブハウスでも試合会場でも、ほとんどメディアと言葉を交わすことがなかった。私が記憶しているのは二度。そのうち一度は言葉ではないが。
4月14日の名古屋戦。自身が先発して連敗脱出したが「たかが1勝」と言い捨てた(その後3戦勝利なし)。
9月18日ACL準々決勝セカンドレグ突破を決めた対天津権健戦後、「壁突破ですね」と声をかけると、指を2本立てて、わずかに目を細めた(Vサインなのか準決勝、決勝のあとふたつの意味なのかはわからない)。
そしてACL優勝後のミックスゾーンでも、こちらの問いかけに足を止めることはない。ただ、バスのステップを登り切ったときに振り向き、「オレはいいよ。がんばったやつらに話、聞いてやって」と語っただけだった。仲間を最大限に尊重しながらも、冷静になれば湧き上がるだろう自身の悔しさも隠さない。小笠原満男がそこにいた。