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小笠原満男が掲げたACL優勝カップ。
「キャプテンはあなたですから」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/11/13 17:00
鹿島における小笠原満男の存在感は、まさに別格だ。彼のメンタリティがこのチームを強豪たらしめている。
最後の交代カードは小笠原ではなかった。
ACL決勝戦セカンドレグ。試合終了間際の最後の交代カードはFWの金森健志。スピードが持ち味の金森を投入し、スコアレスドローで試合を終わらせる。ある種セオリー通りの采配だった。
たとえそれが小笠原だったとしても、誰も驚きはしなかったはずだ。小笠原にも試合を終わらせる力は十分にある。なぜ小笠原じゃないのか、という声もあがるかもしれない。監督の真意は計り知れないが、彼は指揮官としての仕事を貫いた。
鹿島のボランチは、三竿健斗とレオ・シルバが主軸となっている。その次に控えるのが小笠原であり永木亮太だった。負傷やコンディションを考慮し、軸のふたりの起用が叶わない場合、小笠原や永木がスタメンに名を連ねるというイメージだ。
控えの難しい立場の中でも。
ACL決勝直前のリーグ戦C大阪戦、柏戦で先発し、若い選手を支えるように連勝に貢献した小笠原は十二分にピッチ上で輝いていた。
しかしその2戦の前の段階で、先発したリーグ戦9試合の戦績は4勝5敗。特に3月10日広島戦、4月21日川崎戦、10月20日浦和戦と優勝を争う重要な試合で敗戦している。
「チームを勝たせる任務」を達成できなかった現実を、最も強く痛感したのは小笠原自身だったに違いない。
過密日程が原因で紅白戦もままならない状況での控えという立場は、百戦錬磨の男であっても試合勘を維持するのは容易ではない。練習を休むことはなかったが、小笠原のコンディションが常に万全だったとも限らないだろう。自身の不甲斐なさに怒り、あの小笠原であっても、心が折れそうになることがあったかもしれない。
選手なら「常時、試合で使ってもらえたら……」と願い、不満を抱くのは当然のことだ。けれど、鹿島アントラーズというクラブでそんな姿勢は許されるわけもなく、それは小笠原が一番わかっている。
と同時に、彼が味わう苦しさもまた鹿島アントラーズの選手だからこその苦さなのだ。すべてをわかり尽くしているからこそ、小笠原は黙々と、自身がやるべき仕事をまっとうしようと己と戦い続けたに違いない。
だからこそ、C大阪戦で証明した。まだ、小笠原満男が小笠原満男であることを。試合後もまた小笠原は小笠原だった。
記者の質問に答えることはこの日もなかった。ベンチ入りしなかった若い選手たちに囲まれて駐車場へ向かう。自身の子どもとそう歳の変わらない選手たちと談笑しながら歩く小笠原が浮かべた軽やかな笑顔だけで、「チームを勝たせる仕事ができた」という彼の想いが伝わってくるようだった。
そして、テヘラン。試合出場した選手が、その務めを果たした。