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小笠原満男が掲げたACL優勝カップ。
「キャプテンはあなたですから」
posted2018/11/13 17:00
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph by
J.LEAGUE
優勝セレモニーを待つ間、ピッチ中央に立っていた大岩剛監督のもとに突然選手たちが駆け寄り、ペットボトルの水をシャワーのように掛けて指揮官を祝った。驚くように振り向いた監督は、ひとりの選手の手を取り、自身の胸のなかに引き寄せ、ギュッと抱擁する。
小笠原満男を抱き寄せるその力強さとそこにこめられた様々な想いは、スタンドから見ていても伝わってきた。鈴木満強化部長の言葉が脳裏によみがえる。
「やっぱりベテランで、実績のある選手を外すときというのは、すごく難しい部分があるんだけど、満男の処遇だとか……。そういう切り替えをうまくやってくれた。そういうところでは、意外とシビアに見ながらやれるのが剛の良さかなと思っている。
やっぱり選手に対して優しいから。すべての選手に対して、思いを持ってちゃんと接してやってくれていると感じている。選手との信頼関係を築いているから。選手と1対1で話してフォローもしているし。(試合に外される)選手が納得するというのは、なかなか難しいところがあると思うけれど、たとえば現役をやめてから『あそこでああなったのはしょうがないな』と自分で思えるようにはなっていると思うよ」
ともにピッチに立った小笠原、曽ヶ端と。
鈴木によれば、大岩監督自身も現役時代に先発を離れてから、控え選手として客観的に冷静にチームを見ながら、若い選手にアドバイスしたり、指導したりという時間を過ごしていたという。だからこそ自身が指揮を執るようになっても、先発起用が減った小笠原の悔しさや空しさも理解できるはずだ。
「私、個人的に彼とは現役選手としてプレーしていましたので、僕自身も彼に対して特別な感情がありますし、彼も曽ヶ端も含めて、彼らとACLのアジアタイトルを取り切れたということが、私個人的にですけども、非常にうれしく思っている」
試合後の公式会見で、大岩監督はそう語っている。大岩監督が鹿島に加入したのは、2003年。すでに小笠原は鹿島の中心選手であり、大岩にとっては、年齢的には自分より若くても、小笠原や曽ヶ端準といった選手から数多くの学びを得たに違いない。同時に何度もアジアの壁に跳ね返され、ACLのタイトルを逃した悔しさもともに味わってきた。