徹底的な監視と隙を突く動き。

　試合中、坂は何度も瀬川に目をやった。ボールを目で追いながらも、繰り返し中央にポジショニングする瀬川の確認を怠らなかった。一方、瀬川は柏の縦パスが上手くいかないこともあり、坂の監視をくぐり抜けられずにいた。

「坂くんはマンツーマン気味に僕についていた。僕がやるべきことは点を獲ることよりも“おとり”になって、周りの選手を生かすことだった。大事なところだけ裏を狙おうと思っていた」

　苦しんだ瀬川だったが、後半に入ると徐々に持ち味を発揮した。MF手塚康平とDF中山雄太がピッチに入るとビルドアップがスムーズになり、裏に抜ける動きが引き出せるようになった。

「（江坂）任くん、僕、（中川）寛斗の3人で湘南の2ボランチの間や脇に立っても、坂くんを始めとした3バックがあまり食いつかなかった。そこで受けてターンして仕掛けることで広げようと思った」

　こう打開策を見出してきた瀬川に、坂も必死で対応してきた。

　60分にスルーパスに瀬川が抜け出そうとするが、坂が鋭い出足で防ぐ。63分には左からロビングが送られたが、瀬川の動きを見破っていた坂がヘッドでクリア。1－1で迎えた90分にもDF小池龍太のロングフィードをすかさず寄せてボールを奪い取った。

2人とも「今後が楽しみ」。

　試合は延長前半3分、セットプレーから坂が勝ち越し弾を決める展開に。その後は追いつきたい柏にあって、瀬川がテンポの良いパスで撃を活性化。113分にFW山崎亮平が同点ゴールを叩き込んだ。

　最終的にはPK戦の末に、湘南の決勝進出が決まった。しかし2試合合計で210分の激闘で2人が見せた濃密な駆け引きは非常に高度で、試合を白熱させた大きな要素となった。

「2試合とも目と頭がとても疲れました。どちらかというと普段の試合はパワー勝負というか、僕よりデカい相手が多くて、瀬川さんのようなタイプは少ない。だからそういう意味では楽しいし、自分の力になると思います。次の対戦が楽しみです」（坂）

「“坂くんから意識されているな”と感じ取れたので、凄く楽しかったですね。『坂くんvs.僕』のマッチアップは駆け引きの連続でしたから。今後は周りを使うことで、僕を含めた2、3人を坂くんが見ないといけない状況を作り出したい。そうなれば僕にとって駆け引きでの勝利だと思っています。共通理解がないとそのポジションが獲れないので、次の対戦までに周囲とコミュニケーションをしっかりと取っていきたいです」（瀬川）

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