坂のクリアに瀬川も驚き。

　前述のシーン、瀬川目線からも語ってもらった。すると瀬川が坂に対して仕掛けた駆け引きに、明確な意図があったのだという。

「（手塚）康平が最終ラインでボールをタッチしながら持ち込んできたので、“左足のロングパスを狙っている”と感じたんです。それでセンターバック2枚の間に立ちましたが、坂くんは僕をチェックしていた。すると（中川）寛斗が相手の左ボランチ（金子大毅）の左脇に下がっていくのが見えたんです。だから“もし相手ボランチが寛斗の動きに食いついたら、湘南の右ボランチとの間が開く”と思ったので、そこに落ちてクサビのボールを受けようと思った」

　そう考えた瀬川は中川と連動して、手塚からクサビのパスを引き出す動きを見せる。すると、金子は中川のケアに行った。そこで瀬川は判断を変えた。

「金子選手が寛斗に食いついた時、『あ、絶対に坂くんは俺のところに来るな』と思ったんです。そこで一瞬だけ後ろを確認したら、予想通り坂くんが来たので、坂くんが出てきて空いた裏のスペースを狙って、ターンで抜け出そうとしたんです。康平は僕と寛斗のどちらにもパスが出せる状態でしたし、全力で裏に抜けました」

　狙いは完璧だったが、手塚のパスは短く最終的には坂がクリアした。ただこのプレーについても瀬川は「動き出しは完璧だったけど、坂くんがすぐに気づいてターンした。あの反応とターンの速さは凄かった」と、坂の実力を感じ取った。

第1戦は瀬川が優勢だったが。

　そこから坂の視界には瀬川が、瀬川の視界には坂が入るようになる。

「あのシーン以来、明らかに坂くんの意識は変わった。常に目線を感じるようになったからこそ、僕も彼の視界から外れる動きをより意識するようになった」

　お互いが認め合ったことで、2人の駆け引きのレベルはさらに上がっていった。

　ファーストレグだけ見ると、軍配が上がったのは瀬川だった。前半1分に先制ゴールを奪っているし、70分にはドリブルシュートを放ち、75分には湘南GK秋元陽太のスーパーセーブに阻まれたものの、2度の動き直しでフリーになって決定的なヘッドを放つ場面があったからだ。

　だが、セカンドレグはそのお返しとばかりに、坂が徹底した“瀬川封じ”を見せた。

【次ページ】　徹底的な監視と隙を突く動き。