2人が語った石井の思い出。

　谷繁氏はスケジュールの合間を縫って仕事へと向かう前に、応対してくださった。

「初めて動きを見た時に正直、びっくりした。耳が聴こえづらいと聞いていたけれど、フィールディングとかすべてに能力が高かった。失礼だけれど、普通の選手と同じか、それ以上だった。その時に『ハンディがある』とか、そういう見方はなくなりましたね。『石井』とか『石井たん』とかって、みんなで呼んで。まさか14年間も第一線で投げるとは、思わなかった。よくやった、と思いますよ」

　当時の本音を聞くことができた。若き日の石井投手を、少しだけ想像する材料になった。

　福留選手は、ちょっと意外な思い入れを明かしてくれた。同僚だったのは中日時代だけで、互いに道は分かれたが、ずっと石井選手を気に掛けていたのだという。そして、ファイターズのチームメートの大半と同じように愛情を込めて「石井ちゃん」と呼び、回想してくれた。

「米国でも石井ちゃんの成績は」

「アメリカに行っても、石井ちゃんの成績はずっとチェックしていましたね。『頑張っているんだな』とか、気になっていましたね」

　引退セレモニー終了後。サプライズで登場してくれた2人との思い出に浸り、石井選手は感傷的になっていた。少し涙ぐみながら「本当にありがとうございました、とよろしく伝えてください。感謝しています、と」と声を震わせていた。深く宿る思いを、垣間見ることができた。

　秋。プロ野球界では人事が動き出し、別れの季節でもある。球団の一員である広報としては寂しいのが現実ではある。ただ現役に別れを告げた選手から、野球人生をおすそ分けしてもらえるのである。