内角低め一杯の球だけを待って。

　山崎の投げる最高のツーシームは、右打者のインコース一杯、低め一杯に沈む球だ。

「じつはホームランを打つ前の球もツーシームだったんです。だけど、僕は三塁側にゴロのファウルを打った。しかもバットを折られたんです。結果的にはホームランのより甘い球でした。落ち切れなかった。

　でも、自分が待っていたのはもっと厳しいコースです。だから打てなかった。みんなからは『もっと難しいボールをよく打った』と言ってもらえましたが、僕はあの内角低め一杯の球だけを待っていたから」

　内川は次の球を高々とすくい上げた。打球は左翼席へ大きな放物線を描いた。決して失投ではなかったが、だからこそ、内川は完璧に打ち返せたのだった。

自分の中での勝手なプラス思考。

「打った後だから何とでも言えるけど、ホームランを打てるという確信があったわけじゃない。自分の中での勝手なプラス思考、割り切りですよ。長いレギュラーシーズンの戦いだと、それでまの成績や前の対戦のイメージが入って来るので、その1打席だけの勝負にはなれない部分もある。数字を落としていれば、オレ調子悪いなとか、感じがおかしいなとか。

　でも、クライマックスシリーズとか日本シリーズはその1打席の中で、自分のベストをどのように発揮出来るか。そんなシンプルなところで考えられる。シーズンだと10回のうち3回ヒットを打てばすごいと言われる。けど、1打席に限定すれば打つか打たないか。ならば、打つ確率は5割じゃないですか」

　昨年のクライマックスシリーズでも、内川は4試合連続でホームランを放っている。

　短期決戦や大舞台にはやたら強い。

　'14年は日本シリーズMVP。クライマックスシリーズのMVPは昨年を含め3回を数える。オールスターMVPも2度受賞。3度出場したワールドベースボールクラシックでの通算打率は3割4分7厘、2本塁打、11打点。各大会で打率3割以上を残してきた。

【次ページ】　他人が感じないところを感じて。