野球のぼせもんBACK NUMBER
「ぶっちゃけ僕は弱い人間」だが。
内川聖一が大舞台にやたら強い理由。
posted2018/10/12 07:00
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Kyodo News
「このボールを、こんな風に打てばホームランになりやすい。あの時自分の中では見えていたんです。だから打った瞬間も別に驚かなかった。あ、やっぱりそうなったかって」
昨年の日本シリーズ第6戦の9回裏。あれは本当に劇的な一発だった。
ホークスは追い込まれていた。スコアは2-3。1死走者なし。この回先頭のデスパイネが打ち取られ、次いで打席に入ったのが内川聖一だった。
「あの打席に限っては意外と冷静でした。山崎君との対戦はシリーズで3度目だったし」
マウンドにはベイスターズ抑えの山崎康晃がいた。過去2打席は2打数1安打。しかし、内川に「勝った」という感覚は残っていなかった。
「第4戦はショートゴロ。第5戦では三遊間を抜きましたが、引っ掛けたゴロがそこに飛んだだけ。あのツーシームをそう打てば、当然こうなるよなという感じでした」
もし、デスパイネが出塁していれば「つなぐ打撃を意識した」から、あの同点弾は生まれていなかっただろう。だが、走者なしで回ってきた。自分の後ろは下位打線になる。
フライアウトでも俺の勝ち。
だから内川は考えた。
「連打やホームランが出る確率は今の自分の方が高い。ただ、ゴロではダメ。ホームランを打つためには打球を上げないといけない。とにかくフライを打つ。もし、フライでアウトになっても『俺の勝ち』というくらいの割り切った感覚でした」
その前提条件を頭に思い浮かべながら、内川は打席へ一歩一歩と向かっていった。
狙い球も絞っていた。過去2打席で「やられた」、山崎のあのツーシームである。
「フライにするにはストレートよりもツーシームを強引に振り上げること。ただ、あの局面ですから、厳しいところに投げてくるのは分かっていました。だから僕も彼の最高のボールをイメージしたんです」