野球善哉BACK NUMBER
技術屋・中村剛也の見事な復活劇。
「振り遅れるなら強制的に……」
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2018/10/08 08:00
昨年はシーズン終盤の苦しい時期に山川が打った。そして今年は中村が打った。彼の存在はとてつもなく巨大だ。
チームの停滞感を中村が救った。
しかしそんな中村も、この2、3年は苦しい日々を過ごした。
古傷の右ひざが思うように回復せず、持ち前の技術力が発揮できない日々が続いた。30歳を超えて年齢的な衰えもあったのかもしれない。昨季の途中には不調に陥り、4番の座を山川穂高に奪われている。
今季が始まってもその構図は変わらなかった。
開幕は6番サードでスタメン出場を果たしたものの、打率は1割台でホームランも出ず、4月21日に守備でダイビングキャッチを試みた際、左肩を痛めてファーム落ち。6月に復帰してようやく初本塁打をマークしたが、中村の存在感は以前ほどではなくなっていた。
ところが、7月に入ってから徐々に本塁打数を増やし、中村本来の姿を取り戻していった。7月は8本塁打、8月は12本塁打と、たった2カ月で20本をマークした。チームの打線が停滞しかけていた時だったから、中村の存在がいかにありがたかったかは想像できる。
辻発彦監督はこう語った。
「中村が好調だった8月はソフトバンクの追い上げがあった時で、打線全体が少し落ちてきていた。そんな時に中村があれだけ打ってくれたから、9月を迎えるまで首位にいることができた。栗山(巧)と2人、ベテランの力は大きかった」
「いや、ただの振り遅れですよ」
では彼は、何をどう変えたのだろうか。
7月からの中村のホームランを見ていて気づくのは打球方向だ。昨季は2本しかなかった右方向へのホームランが、7月からの2カ月だけで8本(今季トータルは9本)も出ているのだ。
9月17日、ソフトバンクとの3連戦最終戦で、中村は7回裏に3点本塁打をライトスタンドに放り込んだ。スアレスの153キロのストレートを捉えた芸術的な一発だった。
「いや、ただの振り遅れですよ」
最初は煙に巻くかのようにそう答えた中村だったが、振り遅れであの打球にはならないと思うと伝えると、こう説明してくれた。
「芯にしっかり当たって振り切れさえすれば、遅れていても打球は飛んでいくんで。まぁ、他にも色々、理由はあるんですけど」