野球善哉BACK NUMBER
技術屋・中村剛也の見事な復活劇。
「振り遅れるなら強制的に……」
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2018/10/08 08:00
昨年はシーズン終盤の苦しい時期に山川が打った。そして今年は中村が打った。彼の存在はとてつもなく巨大だ。
技術屋だからこそ果たせた見事な復活劇。
中村がかつてアオダモのバットを使用していたことは有名な話だ。
かつての懐が柔らかくて力強いバッティングは、しなりを生かしたスイングスピードが専売特許だった。しかし瞬発力が落ちてきたことに対応して、ボールを捉えるアプローチを変えたということである。
「振り遅れはずっと感じていたんで、色々試しながらやってみたんです。どこで力を生むかなんです」
現在の中村の打席を確認すると分かるが、トップをつくるまでにバットを小さく動かしているのが分かる。傍目で見れば、タイミングをとっているかのような所作にもうつるが、実は、失われた瞬発力を補うために力を生み出す繊細な動きだったのだ。
スイングスピードが落ちてミートポイントが後ろになれば、昔のような打球を飛ばすことはできない。そこで中村は力を生み出す動きをつくり、さらにバットの重さと材質を変えてスイングスピードを補ったということだ。
技術でタイトルを何度も獲得した中村が、復活のたよりにしたのが技術的なアプローチだったというのはなんとも彼らしい。
10年ぶりの優勝には決して欠かせなかったベテランアーチスト・中村剛也。
技術屋だからこそ果たせた、見事な復活劇だ。