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「目の前の1試合に集中するだけ」
鹿島の快進撃を支える勝利のDNA。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byItaru Chiba/AFLO
posted2018/10/06 11:00
強い鹿島アントラーズが帰ってきた。立ち返る原点があるクラブというのはこれほどまでに強いのだ。
西と内田の右サイドが敵陣に侵入する。
そして、右アウトサイドに西大伍を投入したのが後半38分だった。その直後、スンヒョンからの縦パスを受けた西がキレのあるターンで相手を翻弄し、セルジーニョへラストパスを送り、それが同点弾となった。
「あんなプレーができる大伍はサイドバックじゃなくて、中盤の選手だよ」と内田が評した。2人の日本代表経験者サイドバックを縦に並べた鹿島の右サイドは、果敢に敵陣へ侵入する。
「内田さん、どこまで上がるのって思った。もし取られたら俺が守るんだよなって」と西が笑う。それでも、簡単にボールを失うことはなかった。水原の選手たちの疲労度は一気に高まったに違いない。
そして、内田が倒されてFKの場面を迎える。キッカーはセルジーニョ。鹿島の選手はほぼ全員がペナルティエリアに並んだ。
実はこのときGKクォン・スンテは、大声で安西へ指示を送っている。相手のカウンターに備えて、ポジションを下げさせたのだ。
「セルジーニョのFKが素晴らしいことはわかっていたけれど、試合終了の笛が鳴るまで、試合は終わらない。相手の壁の選手がカウンターを狙っているように見えたので、指示を出した」とスンテ。
「脩斗さん、触るな」
セルジーニョのキックに選手が競り合う。そのこぼれ球を蹴りこんだのは内田だった。シュートは相手に当たったものの、再び自分の足元に転がってきたボールを冷静に蹴りこんだ。ゴールに近い場所にいた山本脩斗が、よけるようにしてボールを見送る。
「脩斗さん、触るな」
オフサイドになる危険性がある。そう願いながらボールの行方を見守っていた内田の得点が決まる。普段のセットプレーならば、チームの最後尾に立っていることのほうが多い。内田のあれほどのガッツポーズは見たことがなかった。