プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
棚橋弘至、再び奪われた新日本の主役。
新鋭スイッチブレイドとは何者か?
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2018/09/27 08:00
オカダとの戦いの構図には既視感が伴うが……スイッチブレイドがもたらす新しい展開に、棚橋はどう応える?
飛んで飛んで飛びまくった棚橋。
棚橋は飛んだ。
たとえ、オカダの両ヒザが下でケンザンのように待ち受けていても、かまわずに飛んだ。
飛べなかったら棚橋じゃない、と自分に言い聞かせるように、棚橋は飛び続けた。オカダが立っていようが、ダウンしていようが、中途半端な姿勢であっても、棚橋は跳躍力のあるヒキガエルのように高くジャンプして、オカダに上空から覆いかぶさっていった。
35分過ぎ、3カウントを聞いたとき「やっとオカダに勝てた」という思いが、棚橋の頭から全身に伝わっていった。
ある日、自分の下にいた男が、突然、自分の上になった。
追いついたり、追いつかれたりした日々は、まだいい方の過去の記憶だった。ある時から、ただただオカダを追う日々が続いたからだ。
「あきらめない」と自分に言い聞かせながらも、オカダとの距離の開きは誰の目にも明白で、「強いオカダ」から逃げていた棚橋がいた。ここまで、ずいぶんと時間がかかってしまっていたのだ。
鏡に映した自分の体を見て棚橋は「まだ、やれる」と自分に含めるように言い聞かせた。筋肉の張りが戻ってきていた。自分の中でバリバリの20代や30代前半と比較するのは無理があるかもしれない。それでも、腕も、胸も、腹も「いいじゃないか、棚橋」と言えるくらいに筋肉がたくましくなっていた。
オカダに勝った。ハイフライフローにこだわった申し分のないピンフォール勝ちだった。
だが、そんな勝利の余韻は数分しか持たなかった。
2015年に入門したばかりの新鋭に!?
まるで泥棒ネコのように姿を見せた男に、棚橋はKOされた。
ジェイ・ホワイト。
またの名をスイッチブレイド。
2015年に新日本プロレスに入門したニュージランド出身の男は、2017年11月に海外修行から戻ると、棚橋を襲って、その前に立ちふさがった。
棚橋はその行為がいやだったようだ。
「前に立てば対戦できるという流れは納得できない」
ただ、ちょっと海外に行って箔をつけて帰って来て、好きに相手の前に立ちふさがれば、対戦できるというパターンを棚橋は嫌った。
それでも棚橋はホワイトと戦った。今年の1.4東京ドームではホワイトと対戦してインターコンチネンタル王座を防衛した。棚橋は感想を語った。
「彼には輝かしい未来が待っているかもしれない。でも、今じゃない。まだ粗い。粗いし若い。ただ、今日の勝ち方じゃあ大きなことは言えないけれど」